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利益ある成長にむけたプライシング戦略

グローバルに対して遅れを取る日本企業のプライシング実施

 今後半導体業界が利益ある成長の達成のためには、コストの削減だけでは維持できず、プライシング(価格付け)への取り組みが重要となる。プライシングの観点から、世界の半導体企業のマネージメントがプライシングにどのような認識をもって戦略の一環としているか、プライシングに取り組んでいるかについて、アクセンチュアが調査結果を発表した。

 さらに、グローバルと比較した日本企業の現状を分析した。日本企業はプライシングの取り組みにおいてグローバル企業より遅れをとっており、また重要改善課題としては、グローバルが全体の製品の収益管理をトップに挙げたのに対して、日本は一時的なディスカウントの削減がトップとなっている。アクセンチュアでは、プライシング戦略の重要性から、日本のプライシング改善にむけた業界の変革を強調している。(以下文中の図は、アクセンチュアからの発表資料から抜粋)

 従来のシリコンサイクルで、年率で2桁成長している時期から年率一桁台となり、さらにアナリストは年率1%台の成長しか評価していない時代になり、半導体企業は、こうした環境の中できちんと利益を取っていくことが重要となる。販売管理費や製造原価の削減は、ある程度飽和している。コストはそのままで安く売らない活動を、会社の中に仕組みとして入れていくことで利益を確保していくことが必要である。

1.価格の1%上昇は利益を10%以上上昇させる

 単純に考えると、100の売上の会社が利益率10%で利益は10となる。100が価格を上げることで、101で売れた時の利益は11になる。つまり、利益は10%増となるわけである。
 価格に対しての取り組みについて、半導体企業の経営層がどのような意識を持っているのか、恐らく重要に思っているに違いないという認識で、アクセンチュアは第三者機関を解して調査を行った。

2.プライシング調査〜全体論〜

プライシング調査  調査は米国・ヨーロッパ・アジア(日本を含む)各国の35社の意志決定権のある上級役員を対象。ビジネスモデルは、IDM、デザインハウス、ファブレス等、ほぼ全ての半導体の業種に渡っている。  調査の結果、プライシングが企業の収益性を大きく左右し、重要であることは分かっているが、本当にプライシング管理ができているかについては、できていると自信を持って答えた企業はほとんどなかった。  では、なぜできないのか。 ・プライシングの管理ツール、システム等が高度なプライシング管理をできるレベルに達していない ・プライシングするに当たり、価格決定の業務プロセスが整備されていない といった現実がある。

 プライシング管理の改善に向け、何らかの取り組みを検討している企業は多い。こうした企業の殆んどが、何らかのタイプの新しいプライシング管理ツールを含む取り組みを検討している。プライシング管理がうまくいっていると答えた企業は、収益性管理等を他社に先駆けて行っている。これが、パフォーマンスの高さに繋がっている。

3.プライシング調査〜グローバルと日本〜

 調査結果から、日本のデータだけを取り出し、日本の回答者とその他の回答者で違いはないか、データを比較した。(以下、日本を含む全体の回答を『グローバル』と分類)

1)プライシング改善に向けた取り組み状況
プライシング改善の取組状況
 プライシング改善の取り組み状況について、グローバル企業、日本の企業ともにも関心は高い。世界的に見ると89%の企業がプライシングの改善施策を実施中(66%)、または向こう12ヶ月の間に実施を計画している(23%)。
 これに対して、日本だけのデータでは、実施中が66%、計画中が23%となっている。
 日本の企業はグローバルの企業に比べてやや遅れをとっていて、現時点では実施中の企業よりも実施計画中の企業の方が多い。

2)プライシングにおける重要改善項目

 プライシングにおいて2007年度に取り組むべき改善項目について、グローバルでは、「個々の取引における収益性を見積もる能力の向上」が71%でトップ、「自社の販売部門とサプライチェーンとのより緊密見圧な連携」が66%と続くが、日本企業のみでは、「現行の割引料の削減」が71%とトップになる。お客様に対する割引額を何とか下げたいという声が、数字から読み取れる。日本では、まだ「割引額の縮小」が主要課題で、収益管理まで手がつけられていない企業が多いようだ。

プライシングにおける重要改善項目

3)プライシング能力の評価

 自社のプライシング能力評価で日本とグローバルの平均で差異が大きな項目を分析した。グローバルの平均と比べると、日本の企業は、「プライシングシステムはERP、CRM、SCM、会計、生産といったシステムと連携している」、「プライシングや値引きに関して明確で一貫したルールが存在し、ルールが文書化されている」、「チャネル毎や顧客セグメント毎にサービスコスト等の詳細コストデータを集めている」、という項目が大きくマイナスとなっている。取引の収益性を多角的に評価・分析する点に改善の余地があり、プライシングや割引に一貫性を欠く傾向がある。

プライシング能力の評価

 逆に、日本企業はデータを一元化した集約型プライシングシステムを保持しているので「関連データはシステムで一元管理されており、社内の関係者は誰でもアクセスできる」、「顧客を詳細にセグメンテーションし、価格を設定している」、「取引実績データを統計的に分析している」、と応えている。しかし、実際に使いこなせているのか。戦略的に活用する為に、運用上メスを入れていかなければならない。

4)プライシングの差別化要因、変更頻度

 日本の企業はグローバルに比べ、受注量や顧客の規模によって価格を変更する傾向が強い。また、価格変更頻度が高い傾向にある。

プライシングの差別化要因、変更頻度

・価格の差別化の要因
 日本の企業は「受注量」が100%であるが、グローバルでは33%。日本の企業では、ボリュームディスカウントは当たり前である。日本の企業の方がディスカウントの条件が多いように感じる。

・価格の変更頻度
 グローバルでは「四半期ごと」が41%であるのに対し、日本の企業は「その都度」が一番多く42%。日本の企業はお客さんの要求にできるだけ応えようとする性質がある。フレキシビリティが非常に高い。その結果、製造コストに乗る販管費がかかり、価格競争力に跳ね返ってくることにもなる。

4.プライシング調査〜まとめ〜

以上、プライシング調査のグローバルに対する日本の特徴をまとめると次のようになる。


  • グローバルでは日本よりもプライシングの取り組みを積極的に行っている。

    • グローバルでは66%の企業がプライシング改善にむけた取り組みを実施中だが、日本では23%と遅れている。


  • グローバルでは全体の製品の収益管理が問題だが、日本では一時的なディスカウントの削減が課題となっている。

    • グローバルでは、40%の企業が、「売上ごとの利益率の把握する能力の向上」を第一に取り組むべきと回答しているのに対し、日本では、43%の企業が「ディスカウントの削減」を第一に取り組むべきと回答。

  • プライシングシステムの他のシステムとの統合ができていない。その結果、取引の収益性評価やディスカウントの一貫性に欠ける。

    • 価格データは一元管理されているが他システムとの統合は、グローバルに遅れをとっている。


  • 日本企業は受注量や顧客規模によって価格を変更し、また、変更頻度も高い傾向にある。


5.プライシング改善に向けた取り組み

プライシングのフレームワーク
プライシング改善の取り組みを行う上でのフレームワークは、以下のようなものがある。

プライシング改善に向けた取り組み

 同じ製品を価格とボリュームでプロットして、グラフにして分析してみる。ボリュームディスカウント等の仮説を立てプロットを置いていき、採算の合わないビジネス部分をグラフで出し「これはなんだ」というところを見つけていくことが改善につながる。
 価格は市場が決めているといっても、その中でどれだけ利益につながるプライシングをしていくかが重要である。


6.変革へのロードマップ

 プライシング改善に向けた取り組みのロードマップは、プライシングの管理レベル・時間によって、以下のようになる。

変革へのロードマップ

 上にある項目程、プライシングの管理レベルが高い。

 実際、プライシング戦略をどのように進めるかについては、いわゆるシステムの大導入という話ではなく、また、ツールだけの話でもない。攻めのプライシングをしようといった様々な目標や、予算・資源・人材の問題、実施期間等、企業に合わせて設定が立てられる。


アクセンチュアの半導体業界での取り組み

 アクセンチュアには大きく分けて4つの産業があり、産業本部の『通信・ハイテク』に3つのサブセグメントがあり、その中の『Electronics & High Tech』に『Semiconductor』がある。電子部品産業、装置産業も含めセミコンダクターという部類に定義し、コンサルティング、サービスをグローバルで展開している。
 グローバルでトップ20に数えられている半導体関係の会社のうち約14社がアクセンチュアのクライアント。日本においてもトップ10のうち約半数がクライアント。
 アクセンチュアは日本半導体企業のコンサルティング経験も多く、これまでも様々な領域でクライアントのパフォーマンス向上をサポートしている。
 設計から営業/マーケティング、製販、生産、物流といった基幹の流れ、人事・総務といったバックオフィス系、業界での提言調査など提供している。例えば、「グローバルSCM」と生産、戦略グループにて業界での調査・提言、また設計の改革、CRMのシステム、グローバルSCM等を実際に行き立ち上げてきた。他にも、経営管理やITシステムの構築・運用等も行い、幅広く業界に対して付加価値を提供している。


問い合わせ先:アクセンチュア株式会社 マーケティング・コミュニケーション
Tel: 03-5771-9258

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