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生産技術「売ります」―シャープが経営戦略を大転換

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かつてシャープの液晶工場は部外者オフ・リミットで、報道関係者への工場公開でも、ごく限られた窓から、誰にみられても問題のない工程のみを見せていた。町田勝彦会長は社長時代に液晶パネルの前工程は決して日本から出さない、と断言していた。

シャープは1949年上場直後を除いて半世紀以上、2001年のITバブル崩壊時も含め、一度も損失を計上したことがなかった。しかし、ここ数カ月にわたる世界同時不況による経済危機の中で初めて08年度は営業損益、純損益ともに赤字に陥いる見通しとなった。この危機的な局面を打開するための緊急プログラム−構造改革や固定費削減−とともに中長期的な戦略として打ち出したのが、大事にしている生産技術(前工程)の世界各地への展開である。

この経営方針の発表とともに、シャープは08年度の業績見通しを再度下方修正し、売上で前年比17%減の2兆8500億円、営業損益は昨年度の1837億円の黒字から一転、600億円の赤字、純損益も1019億円の黒字から1300億円の赤字に落ち込むと予想している。


エンジニアリング事業の基本スキーム


これまで、シャープはオンリーワン技術と標榜して技術をブラックボックス化、自社で国内に前工程工場を建設していたが、今後、海外企業と積極的にアライアンスを進め、現地に前工程工場も建設する。部材調達、生産、販売、消費を市場に近いところで完結させる地産地消を目指す。シャープの持つ独自技術、ノウハウを技術指導料という形でイニシャル・ペイメントやロイヤリティ、合弁の配当などで回収する。これは自社単独で前工程の工場を建設するための膨大な初期投資を実質的にほとんどゼロにできるだけでなく、為替リスクの回避、また厳しい状況の中で進行する経済ブロック化への対応も可能になるとしている。


エンジニアリング事業における投資と回収パターンモデル


「世界で始めて6Gの液晶工場を立ち上げたのはシャープ。工場の設備はシャープが装置メーカー、材料メーカーと一緒に設計して作ったもの。8Gの工場も世界で初めてシャープが建設した。設備は全部共同開発契約のもとでシャープと装置メーカーなどが設計開発した。つまり(LCDの)製造についてはシャープが世界で一番詳しい会社である。LCD パネルやLCD TVを作るのが本質ではなく、シャープの本当のコアは生産技術にある」とシャープの片山幹雄社長は語る。


シャープの片山幹雄社長


「日本から輸出するという方法はもはや最先端の産業であっても困難という認識にたって、従来の事業を抜本的に見直した」と片山社長。「今回のエンジニアリング事業は一民間企業としては大きな構想であり、試みであるが、自動車メーカーはすでにやっていること。我々エレクトロニクス企業も出てゆく」

昨年11月に発表されたイタリアの電力会社Enel社との提携をこの新しいエンジニアリング事業の最初の例として挙げる。「シャープが電力会社のEnelと薄膜太陽電池の工場を作るとは誰も予想していなかっただろう」

シャープは日、米、欧、アジア、中国の5極展開を目指す。「文化の違う相手とやっていけるのか、我々にも大きなチャレンジ」と片山社長は語る。確かにEnel社との提携作業も、12月に薄膜太陽電池工場の合意文書の契約、春には独立発電事業の合弁会社の設立という予定であったが、すでに遅れがでており、現在は6月を目指している。

生産技術そのものをビジネスとして活用するエンジニアリング事業は液晶、太陽電池などシャープが長期間に培ってきた技術でしか通用しない。それ故にシャープはその競争力を保持・発展させるための最先端の技術開発を行う拠点として、国内に中心となる工場を持ち、ものづくり技術を極めるとしている。直近では堺コンビナートがその役割を果たす。

懸念される技術の流失、拡散については、信頼できるパートナーを選定し良好にして密な関係を築き、また工場のオペレーションをシャープが担当するなどして対応したいとしている。

これまでの事業形態では、シャープはグローバルな競争においてハンディキャップを背負っていたと片山社長は指摘する。国内の高い人件費を負担し、政府の援助を受ける競争相手と戦い、為替リスクを負う。「これらのハンディをとんでもなく高い技術力や生産技術で補って戦ってきたつもりだったが、その結果が今回の[赤字]決算の見通しとなった。シャープ自身が大きく変わらねばならない。新しいスキームで世界に出ていくなら、競争相手と同じ土俵に立ち、我々の技術力で勝つ」と抱負を語った。


(2009/04/10 セミコンポータル編集室)

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