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日本市場でも産業向けを強化し、強いコンバータをより強くするアナデバ

米アナログ・デバイセズ社(ADI)は、日本市場でも民生から産業用へのシフトに力を入れる、と同社日本法人の代表取締役社長である馬渡修氏は述べた。ADIはもともと産業に強いアナログICメーカー。2008年度(2008年10月末期)における市場別売り上げでは、全世界的には産業用が49%と約半分を占め、残り通信用が25%、民生が21%、コンピュータが5%となっている。国内では民生向けが60%と断然強く、産業用は24%しかない。このため民生比率を50%程度に落とすため産業用や通信用をもっと増やしていく。

民生用では任天堂のゲーム機WiiにADIの加速度センサーが使われており、その製品は伸びたが、そのほかの製品ではむしろマイナスになり、国内の民生トータルでは対前年比3%減となった。民生市場は浮き沈みが激しく、経営的には安定しない。このため成長率はそれほど高くないが着実に成長できる産業用、通信用へと舵を切り替えようとしている。

アナログ製品の中でADIが強い分野はA-D/D-Aなどのデータコンバータ製品で、米市場調査会社ガートナーによると、データコンバータ市場では世界トップをいくという。


データコンバータ市場における各社のシェア

データコンバータ市場における各社のシェア


ADIの財務は、2008年度が終わった時点で売上は対前年比で6%増の25億8000万ドル、営業利益は10%増え6億5000万ドルになった。直近の四半期(2008年11月〜2009年1月末)は前年同期比で25~30%の低下が見込まれることを1月21日に発表したが、この世界的な経済危機の影響が業績に表れてきたのがこの四半期であるから、それまでは好調に推移してきたといえよう。

ADIの日本法人であるADKKは、全世界売上の中の20%近くを占めていたが、2008年度は19%に落ちた。この割合を奪回するため、今500億円強の売り上げを5年以内に1000億円に上げることを目標に掲げている。

このために二つのマーケットに注力する戦略をとっていく。一つは特定顧客に的を絞るストラテジックセグメントマーケットと、もう一つはマスマーケットである。ストラテジックセグメントマーケットでは、民生、オートモーティブ、産業計測、ヘルスケア、通信インフラの5つの分野で専任の営業チームと技術チームがサポートする。まだ、数人の部隊だが、ここではコンセプトの段階から顧客と一緒に開発していく。

もう一つのマスマーケットは日本に数千社ある産業・計測機器の中小メーカーを対象顧客とし、コールセンターのようなサポート体制を構築、データシートやアプリケーションノートといった従来のドキュメントは言うまでもなく、動作確認済み回路を紹介したり、シミュレータなどのオンラインツールを充実させる。チュートリアル的なオンラインセミナーも拡充する。ここにも専任の技術サポート部隊Central application teamを新設するほか、代理店を活用したサテライトオフィスも全国に展開する。

ADIの基本戦略は、産業向けをより強化し、データコンバータのような強い製品は今後もより強くする。今回の事業方針説明会でも発表されたA-Dコンバータの新製品にその思想の一端を見ることができる。

この新型A-Dコンバータ「ADAS1128」は、医用機器のCTスキャナ向けに開発されたA-Dコンバータで、128チャンネルものデジタル出力が可能なA-Dコンバータである。CTスキャナだと、X線源からのX線をシンチレーションカウンタで捕捉し、X線を光に変換する。その光を電流に変え、その電流値をデジタルに変換する。X線検出器のアレイが多ければ多いほど、人体の組織を鮮明に見ることができる。このためA-Dコンバータが多ければ多いほど望ましい。従来はこの1/4の32チャンネルしかなかった。このためチップの数がこの新製品の4倍の数が必要だった。


128チャンネルのA-Dコンバータ

128チャンネルのA-Dコンバータ


しかも人体を構成する骨と肉ではX線が透過する信号強度が違う。肉は通過しやすいからX線信号は強いが骨は弱い。このため信号を検出するためのアンプやA-Dコンバータには広いダイナミックレンジが要求される。ADAS1128は約115dBものダイナミックレンジに対応する。この結果、24ビットと分解能が高く、しかもノイズフロアがフルスケール54.4nAと、従来の261.2nAの1/5を実現した。サンプリングレートは20kサンプル/秒。

ただ4倍の数のA-Dコンバータ回路を集積してはチップ面積を食うだけではなく消費電力も大きくなってしまう。このため、入力の積分回路を従来2個/チャンネルを回路の工夫で1個/チャンネルに減らし、出力側もデータをパイプライン的に出力するようなインターフェースを設けた。この結果、消費電力は4.5mW/チャンネルと従来の半分以下に抑えることができた。これを10mm×10mmのBGAで供給する。250個受注時の単価は192ドル。同社はリアルタイム解析用の評価キットや、回路図・レイアウト・FPGAのVerilogコードを含めたリファレンス設計ボードもサポートしている。出力側ではシリアルデータを並列データに変換したりマルチプレックスするためのFPGAが必要であることは言うまでもない。


(2009/02/06 セミコンポータル編集室)

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