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統計数学的手法で半導体プロセスの歩留まりを上げる、新しいビジネスが登場

多変量解析という学問分野がある。さまざまなデータを整理してそのデータの持つ意味を明らかにするために使う。半導体プロセス工程は700~800工程もあり、各工程の定める規格を満たしていても歩留まりは100%に達しないことがある。規格を厳しく、すなわち狭くすると本来良品なのに規格外の不良品と判定してしまえばロスになる。お金になる製品をみすみす捨ててしまうことになる。歩留まりを100%近く、しかもチップ収量も十分になるようにプロセスを構築するためのカギとなるのが多変量解析ツールだ。

酸化膜厚、配線幅、スペース、不純物濃度、プロファイル、そのためのガス流量、温度、圧力などさまざまなパラメータの制御が必要となる。個々のプロセスでは規格範囲内であるとしても、プロセスがあまりにも複雑になると、結果としてICチップとして現れる特性が良品基準を満たさない場合が出てくる。ICは集積度が2億トランジスタにも及ぶようになると設計の複雑度だけではなくプロセスの複雑度も増してくる。

さまざまなデータを取っていても、それが最終スペックとどう関係するのか、データ量があまりにも膨大でプロセスにどうフィードバックすべきか、わからなくなることがあるという。多変量解析は、さまざまなデータ量を整理して、相関関係を見出し、規格外のデバイスをプロセス上から見つけ出すことができる。

さまざまな実験をして製品を作り出してきた化学や薬学のデータ解析に多変量解析手法は使われてきた。化学や薬学では、一つの物質を開発したからといってもすぐに製品化されるわけではない。それは毒性を持たないか、人体への悪影響はないか、副作用はないか、さまざまな他の物質と反応して社会に悪影響がないように膨大な数の反応過程を徹底的に調べる。データ量があまりにも膨大なため、それを整理してわかりやすい形にするために多変量解析が使われてきた。このような統計解析手法はChemometricsと呼ばれていた。

この手法が今度は半導体製造にも広がりを見せている。半導体製造工程があまりにも複雑になってきたからだ。これはSemimetricsとも呼ばれている。パナソニックは、低歩留まりウェーハの発生を防止するために早い段階からこの種の手法を取り入れてきたことを、11月4日東京秋葉原で開かれた「プロセス不良の発見/回避への応用を見据えた、多変量解析基礎セミナー」で明らかにした。45nmプロセスのDVD用ICは2億5000万トランジスタもあり、工程は複雑すぎる。プロセスデータの経時変化から今後のデータを予測するバーチャルメトロロジーと呼ぶ手法を導入し、進化させている。


スウェーデンUmetrics社のJohn Hultman氏

スウェーデンUmetrics社のJohn Hultman氏


膨大なデータを解析する市販のツールもある。米MKS社が数年前に買収したスウェーデンのUmetrics社はこういった多変量解析ツールの昔から定評のあるメーカーだ。1987年設立の同社は石油・製薬・化学産業で実績を持つ多変量解析ツールの開発会社で、60人しかいない従業員の35%が博士だ、と講演した同社のJohn Hultman氏は述べる。最近では、金融の分野にもこの多変量解析が使われ始めていると同氏はいう。同社は化学分野へはこれまで通り注力するが、半導体は他の産業よりも成長率が高いとして、半導体プロセス分野へも多変量解析という統計数学的手法を持ち込んできた。

半導体製造は微細化が難しくなっているだけではなく、プロセスも膨大になってきているため、膨大なデータの整理を歩留まり解析に役立てようというのが多変量解析である。博士だらけの企業が統計数学を駆使してビジネスにつなげようというこの動きは、複雑化が進む半導体製造にとって新たなビジネスチャンスを生み出す。一方の半導体メーカーもこういった賢い手法を導入することで高い歩留まりを期待できるとなると、統計数学をある程度理解する必要が出てくる。半導体ビジネスの裾野はますます広がっていく。


(2008/11/05 セミコンポータル編集室)

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