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世界的な経済の断絶に直面する半導体産業――ASEのWu COOの講演から

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世界的な経済危機に直面している半導体産業について、台湾の総合アセンブリメーカーASE GroupのCOOであるTien Wu氏が九州福岡市で開かれた「シリコンシーベルトサミット福岡2009」において、長期的なトレンドと日本へのアドバイスを中心に語った。日本と台湾は海沿いにシリコンのシーベルトと言われるように産業的につながっており、同氏は日本への造詣が深い。以下、Wu氏の講演を同氏の言葉で紹介する。

半導体産業と成熟化
 半導体の成長率の振幅はGDPにあわせて次第に収束してきている。これは何を意味するのか?半導体は成熟してきたということである。従って、成長期にあるような若い産業を考えるのではなく、これからは成熟した産業として考えることが必要になる。次の20年はGDP並みの成長率になるかもしれない。つまり、投資をしても大きなリターンが期待できないかもしれない。

Source: IMF January 2009, Gartner Dataquest  January 2009

Source: IMF January 2009, Gartner Dataquest January 2009

成熟期のビジネスモデル
 成熟期にあって、ビジネスモデルの二極化が進んでいる。どのような会社であれ、成熟期の中で生き残るためには、二つしか選択肢がない。一つは、インフラストラクチャ分野でプレーヤとして生き残ること。ここにおけるキーワードは、低コスト化、量産効果、多様化する顧客である。つまり、ここでは量とコストにおける競争力が必要となる。例としては、EMS(製造受託契約企業)のFoxcon社。もう一つの選択肢はサービスIP分野でのプレーヤである。ここでは、技術力やブランド力、現地化、他の誰もが提供できないサービス、システムインテグレーションがキーワードとなる。典型的な例は米Qualcomm社。

 では、この真ん中にあるのが、Freescaleや、NXP、TI、そして、ほとんどの日本のメーカーだ。日本には10億ドル以上の売り上げがあるIDMが40社もあるといわれる。この40社のIDMは全部真ん中に位置する。

Polarization of Business Model

 FreescaleやNXP、TIが何をしようとしているのか明確である。日本はこれからどうするのか?今まで選択を迫られてきた。真ん中で生き残る選択肢はない。左か右かのいずれかとなる。日本企業は量とコストで決めるインフラ分野に行くのか、あるいはIPサービス分野にいくのか決めなければならない。アジア太平洋地域では、日本はIPサービスで優位な立場にある。

GDPと成長率の解釈
 GDPを見よう。米国は14兆3000億ドル、次いで日本が4.8兆ドル、中国が4.2兆ドル、ドイツ3.8兆ドルと続く。成長率については、二極化が進んでいる。先進国は1%前後。中国は9.7%、インドが7.9%と高成長。成長率の解釈については誤解がある。日本は0.7%の伸びだが、それは日本全体がほぼ同様の伸びである。一方中国の9.7%は、上海や北京などの中流階級の人が引っ張っている。その中流階級こそが中国の民生用機器を買う購買層であり、これが中国のコンシューマ市場を引き上げている。

GDP and Growth Rate Distribution

 その中で半導体市場は2600億ドルと小さい。ただし、2600億ドルが飽和しているのではない。半導体のノウハウを世界の経済を介してみる必要がある。

 一方で米国のウォール街が死んだといわれている。しかし私は今後20年の市場は米国市場だと見ている。GDPは14.3兆ドル(2008年)だが、借入れが6兆ドルあり、20兆ドルを使っていることになる。これだけのお金を使う国が世界のどこにあろうか。省エネにも燃料にもどんどんお金を使っている。

 一番大きな半導体の市場は日本ではない。日本は日本国内に目を向けている。次の進化の波はどこか、それを把握することが大切である。日本の企業はいかにしてアライアンスを進めていくかが大切だ。日本のGDP4.80兆ドルは、世界経済の10%しかない。

経済断絶の意味
 経済断絶の定義を考えてみよう。トレンドにおける変化が大きすぎるため、通常考えることができないような変化に直面している。失業率は上昇し、お金の流れが止まった。33カ国がGDPの1〜2%を刺激策に投じている。銀行の国営化で金融の自由化がなくなってもいる。回復サイクルが長くかかる。経済回復する時期については30ヵ月とも36ヵ月とも言われる。生産能力が30%余剰になる。つまり、余剰供給が30%となる時代が来る。企業の統合は成長のためではなく生き残るためである。

 半導体が成長するために日本は何をするべきか。日本は、製造や技術ノウハウ、完全なサプライチェーン、ソフトウエア、システムの理解などすべて揃っている唯一の国である。金融も日本だけが今強い。しかし、日本はすべてを自分でやりたがり、日本市場に集中することが強い。今後も日本だけで統合を考えるのか、あるいは世界規模で考えるのか。

 台湾はICの設計が強い。しかし、オプティカル技術も装置もない。次の進化に必要なものをすべてもっているのではない。しかしプロセスと製造のノウハウがある。世界レベルでパートナーを探し続ける。台湾は自国だけでは勝つことはできない。

 半導体は分岐点にある。台湾も中国も同じである。金融危機によって状況がどう変わるだろうか?実は変わらない。もっと加速度的に進む。もちろん従来型の市場でもビジネスチャンスはある。そこへの投資は必要である。しかし、新規市場で何が必要なのか、次の波で勝てることがもっと必要である。
最後に、中国のことわざを紹介しよう。英雄は混沌時代に生まれる。(Heroes emerge in times of chaos.)


(2009/02/20 セミコンポータル編集室)

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