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第3回SEMI太陽光発電技術シンポジウムから見る現状と将来展望(2)

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アモルファスシリコン太陽電池をいち早く開発、電卓に応用した三洋電機は結晶シリコンを使った太陽光発電ビジネスでも常に上位にいる。効率の高いHIT構造の太陽電池は20%近い効率で商用化した実績を持つ。研究段階ででは22.5%もの効率を誇る。三洋電機の講演を紹介する。

HITダブルの設置事例(守口市)


「三洋電機における太陽電池事業戦略」三洋電機 執行役員 ソーラー事業部長
 前田哲宏氏の講演

□三洋電機の概要
 三洋電機は、1975年からアモルファスの研究を開始している。1980年には、太陽電池を搭載したアモルトンと言う電卓を開発し、1997年からHIT太陽電池の量産及び販売を開始した。三洋電機の太陽光発電事業は、このHITを中心に事業を展開しており、現在生産量は、340MWまで拡大した。

研究開発は、研究開発本部アドバンストエナジー研究所で行い、製造は、ソーラー事業部・島根三洋、三洋USA、USAモントレー、三洋ハンガリーで行っている。

太陽光発電事業の取り組みとしては、HIT太陽電池で差別化商品を前面に出した事業展開を行っており、変換効率の高さをアピールしている。また、インゴットの引き上げからシステムまで三洋グループ内で一貫して事業を推進している。インゴット引き上げに関しては、アメリカのオレゴン州ポートランドに新たな工場(100MW)を建設した。ただし、引き上げは100%ではなく、内製は2〜30%である。Cell製造は、340MW全てを国内の島根と関西で製造しており、モジュールは、日本、欧州、米国で製造している。
さらに、研究開発では、恐らく国内外でも最大人員を抱え、新規技術を創出している。

□HIT太陽電池
 HIT太陽電池の特徴は、通常の単結晶太陽電池の900度プロセスにくらべ、低温(200度)でpn接合を形成できることである。また、変換効率(セル:19.7%、モジュール:17%)は業界トップクラスであり、その特徴の一つに両面発電ができることが上げられる。さらに、温度上昇による出力低下が少ない等の特徴を有している。

HIT太陽電池は、n型単結晶Si基板上に、薄膜アモルファスSi層を低温で堆積し、pn接合を形成した構造を有している。今研究段階では22.3%の世界最高効率を実現し、量産は2010年を予定している。

HIT太陽電池は、高い温度下でも高出力を出すことができる。これは、アモルファスSiの高温に強い温度測定を活用した結果である。多結晶との温度依存の差を見ると、70度で43%強の発電量の差が表れる。

表面だけではなく、裏面からも発電する両面発電型太陽電池「HITダブル」を開発した。いずれの方位・角度でも従来より発電量が増大し、特に垂直設置では従来比30%アップを実現した。HITダブルは、垂直設置のフェンスや、水平設置のカーポート等に最適な商品である。

□太陽電池業界
太陽電池業界おける追い風としては、日本の補助事業再開、米国・イタリア市場の拡大、自然エネへの期待が上げられる。一方、逆風は、シリコンの不足は解消方向だが値段が高い、欧州補助金の低下、スペインの200MWの上限、市場価格の下落、金融危機と為替変更等がある。

これらの良い点、悪い点を考慮し世界の太陽電池市場を予測する。販売量で考えると、2007年2.5GW、2009年4GW、2012年7GWを想定している。2009年は欧州に比べ、米国市場が伸び、2012年では、欧州は安定、米国がさらに伸びると予測している。一方、日本では、補助金制度が復活し、90億円の補正予算が決まり再浮上の可能性がある。ドイツでは来年以降、関税率が下がり8〜10%のコストダウンを要求されている。さらに、現在欧州は寒い冬のため市場がさらに下がり、さらなるコストダウンが要求されている。その他、金融危機の影響で住宅用の屋根の伸びは少なく、大きなプロジェクトはかなり縮小すると見ている。

多結晶シリコンについては、新規メーカーが生産を伸ばすので生産量は緩むと予測されるが、その通りになるかは疑問である。多結晶シリコンは品質などの信頼性が大きな問題で、安ければ良いというモノではない。現在は、長期契約をしないと高価格になっており、量は出るが相変わらず価格が高いのが現状である。

□三洋電機の戦略
 増産計画としては、現在の260MWから2008年には、340MWへ、さらに2010年600MWまで生産規模を引き上げたいと考えている。600MWで世界シェアの10%を狙う予定であるが、現在の市場縮退の現状を見ると、シェアは大きくなるかも知れない。三洋電機の製品ポジショニングは、高効率、優れた温度特性で差異化することである。また、薄膜Siの事業化検証を本格化する予定である。

コストダウンの施策としては、原材料の価格が最も重要である。今後生産量を増やす時に長期安定の多結晶シリコンの確保が必要だが、2013年から先は、長期が良いかどうかは分からない。

□工場
 二色の浜工場:セル210MW/モジュール35MW
 島根三洋電機:セル50MWを2008年に130MWへ
 滋賀工場:モジュール40MWを集約し100MWへ
 欧州ハンガリー(ブタペスト):145MWを2007年に165MW
 メキシコモントレー:20MWを2007年に50MW
 インゴット:米国のパーソンに加え、オレゴンのセーラムで開始し、100MW

□HITの特徴
 HITダブルは、両面発電太陽電池であり、反射光でも発電でき、デザイン的にも優れている。

□コストダウン戦略
 2014〜2015年を想定して、コストダウンの戦略を策定している。ウェーハコストはモジュール全体の50%強で、多結晶シリコンの価格をどう下げるかだ。また、スライスを薄くし、どのように安くするのか等、ウェーハのコストダウンをまず図る。

□高効率
 住宅用の屋根は限られた面積のため、高効率が有望である。安い多結晶をどのようにして結晶市場に食い込めるかが、今後の攻めどころである。一方大面積は、価格の安いかつ温度影響の少ない薄膜のため、薄膜への投資を同時に行う。

□薄膜への投資
 90年代途中からHITに重点を置いたため、薄膜の開発は敢えて止めていた。しかし再度、薄膜開発を加速させた。この理由として薄膜は、砂漠がポテンシャルを持っているためである。予測的には、2020年でも薄膜の変換効率は20%程度と考えられる。既に、新日本製油と共同出資の会社を設立し、岐阜のソーラーアークの裏の建屋で開発をスタートした。2020年、HITは2GW、薄膜で2GWを目指している。

□今後
 ユビキタスエナジーつまり、どこでも使える太陽エネルギーを考えている。例えば二次電池との融合商品で携帯基地局等は有望である。WWサッカーが南アフリカで開催されるので、ここに太陽光発電関連の商品が最適と考えている。例えば、充電池エネループと合わせてのソーラーライトつまり、独立型ソーラーシステムをアフリカで展開する予定である。
 また、村落電化システムとして、街路灯も面白い。さらに、バッテリーを使い直流で動くTVやファン、照明等の商品も有望である。住宅用の屋根設置型だけでは、市場が広がらず独立型で市場を拡大する予定である。独立型では、中国やインド、中東、オーストラリア、アフリカが考えられ、これらが伸びないと数十MWにはならない。

【質問】
Q:2010年に5GWは行くと思うか?
A:はい。
Q:1つの国で3GWが3つ、その他1GWで10GWの計算だと思う。10GWが達成できれば、20GWの達成は早いと考えられるが、では、そのスピードのイメージは?
A:システム全体のコストダウンが一番の問題である。グリッドパリティは2012年だと思う。これを達成すると一気に拡大すると考えられるが、それまでは、補助金の影響で上がり下がりが大きい。2010年までは、1GWはドイツと米国、500MWは、日本、イタリア、スペインだと予想する。
Q:量の拡大、技術開発、資材調達、等どこでコストダウンを行うのか?
A:多結晶シリコンの供給不足がシェアダウンに繋がった。どこまで薄くできるのかが一つの解であるが、150μm以下は未知数である。まだ、安定した歩留まりで削れるのかもまだ問題だ?現在カーフロス(切断ロス)で、1枚当たり400μmになっている。
Q:多結晶シリコンを安く調達することへの不安はないか?
A:多結晶シリコンの長期契約価格とスポット価格には開きがある。信頼できる多結晶シリコンのメーカーは少なく、新興メーカーは、品質の面で1〜2年では達成できないと考えている。ただ、三洋電機は既に確保は終わっているのだが・・・。
Q:変換効率において、米Sunpower社と最高を争っているが、HITはまだ上がるのか?
A:一朝一夕には上がらない。0.5%/年くらいだろう。製造上の小さな工夫の積み重ねが差異化のポイントである。
Q:n型の単結晶の品質か?
A:ある一定レベルでよい
Q:シャープはイタリアでの製造を考えている。新興国への技術流出の問題を鑑みて、HITの製造は海外へ持って行く予定はあるのか?
A:新HITができれば持って行く可能性はあるが、今はできていないので海外生産は考えていない。
Q:引き上げの立地理由は何か?
A:まずは、電力料金。安定化した電力供給と電力量が最も重要である。水力+火力のバランスやインセンティブがあるかどうか、が選択のポイントである。
Q:増産の人材確保が重要だと思うが、人材確保において問題はないか?
A:セル製造は、日本でのみ行う。この場合増産においては、設備が増えるだけで、人は増やさない。モジュールに関しては、技術が無いので、誰でもできる。よって、海外へ生産を移している。
Q:発展途上国が伸びてきているが、脅威はあるか?
A:中国などはFUNDをバックに、大きな投資をしていた。規模は大きくなるが、太陽電池の寿命は20年持たなければならないので、彼らが信頼性を持っているか疑問だ。信頼性の面からは、彼らは脅威ではないと考えている。
Q:パナソニックとの関係は?
A:現在は、答えられない。


(2008/12/12 セミコンポータル編集室)

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