スマート社会やモビリティなど新応用向け半導体チップの設計者を募る台湾
セミコン・ジャパン2024期間中に、ファブレス半導体産業の先輩でもある台湾からの使節団によるセミナーがあった。「2024 AI & Semiconductor Forum」(参考資料1)と題したセミナーで、台湾国家科学及技術委員会(NTSC)が主催した。この委員会の蘇振綱(Chen-Kang Su)常務副主任委員(副大臣相当)が来日、その狙いを聞いた。

図1 台湾国家科学及技術委員会 常務副主任委員(副大臣相当)の蘇振綱(Ph. D)
台湾にはTSMCやUMCに代表されるファウンドリに注目が集まっているが、MediaTekやNovaTek、RealTekなどのファブレス半導体企業も多い。さらに設計サービスを提供するGUC(Global Unichip Corp.)やAIchip Technologiesなどのデザインハウスも150社〜300社も出来ているという。
日本でもラピダスというファウンドリができても、顧客のIC設計仕様をマスクに落とすまでのデザイン作業を請け負う企業がなければ製造ラインは閑古鳥が鳴いてしまう。このためマスクを提供してくれるデザインハウスの存在が不可欠になる。TSMCには、ICを設計してマスクデータまで出力してくれるデザインハウスをDesign Center Allianceとして組織化している。この中には台湾をはじめ世界中のデザインハウスと提携しており、日本では大日本印刷とTOPPAN、NSWが含まれている。
TSMCは今や自分でこういったデザインハウスのエコシステムを持っているが、スマートフォンやコンピュータ、HPC(High Performance Computing)が売り上げの大半を占めている。今後は、「自動車やスマートシティ、宇宙などの新領域の技術需要が出てくるため」(NSTCの蘇常務副主任)、台湾当局は、新たな半導体設計企業を求めている。このため「IC Taiwan Grand Challenge」と呼ぶ、資金提供プログラムを始めた。
IC Taiwan Grand Challengeは、IC設計のニーズを探るために行い、一般の半導体設計企業が応募し審査に合格すると3万ドルが支給される。さまざまなIC設計者がプロトタイプを設計してもコストがかかるため、このプログラムは設計を支援する。台湾にはファウンドリがあるため、設計したICをファウンドリが製造する。これからのICのニーズは、これまでの台湾が得意な分野とは限らない。しかも台湾のデザインハウスだけを対象とせず、世界からIC設計に自信のある企業の参加も受け入れる。むしろ海外のファブレスが来ることも奨励している。例えば、量子井戸に電子の有無を検出する新型量子メモリの英国スタートアップQuInAs Technology(参考資料2)CEOのJames Ashforth-Pook氏は昨年、このGrand Challengeを利用したと語っている。
Ph.Dの博士号を持つNSTCの蘇常務副主任は「日本からも参加してほしい」、と呼びかけている。ファウンドリが確立した台湾を今後もさらに強くするためには、やはり新しい応用が出てきたときにそれを設計できるIC設計者を世界から呼び込み、台湾で製造へと導くことが必要となる。海外のIC設計者は、将来のファウンドリの顧客になる可能性に結びつく。それも「応用としてスマートシティやモビリティ、宇宙など新しい分野にも革新的なICを設計できる企業が台湾の製造と結びつく」ことを蘇副主任は期待している。
今回の2024 AI & Semiconductor Forumでは、デザインハウスであるCMSC(益芯科技)は、日本市場に高い関心を持ち、日本と台湾がタイアップしてIC設計をやろう、とCMSCの陳仲義会長はセミナーの中で呼び掛けた。福岡市にSoCの設計センターを設置する予定であり、九州大学にも寄付講座を設ける。これからのICの応用として車載やメカトロニクスは台湾ではユーザー企業が少なく、自動車王国である日本でIC設計のスタートアップ向けのエコシステムを作る予定だ。
参考資料
1. 2024 AI & Semiconductor Forum、Semicon Japanセミナー、(2024/12/13)
2. 「共鳴トンネリングを利用する新不揮発性RAMで英ベンチャーが最優秀賞を受賞」、セミコンポータル、(2023/08/16)