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半導体関連企業を呼び込むアイルランド、セミコン・ジャパン2024で来日

イギリスの西側にある島国のアイルランド。ラグビーやサッカーが盛んな国であるが、ここに大手半導体メーカーの工場がある。Intel Corp.とAnalog Devices Inc.の工場だ。特にIntelの工場には米国外の工場として最新工場であり、ADIの工場は1976年に設立され現在も稼働している。アイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)は企業誘致を活発に展開している。その企業技術部門のシニアVP(バイスプレジデント)であるAnne-Marie Tierney Le-Roux(アンマリー・ティアニー・レルー)氏(図1)がセミコン・ジャパン2024に来日、話を聞いた。

Anne-Marie Tierney Le-Roux, Senior Vice President, Global Enterprise Technology, IDA Ireland

図1 IDA Ireland企業技術部門のシニアVPであるアンマリー・ティアニー・レルー(Anne-Marie Tierney Le-Roux)氏


アイルランドからTierney Le-Roux氏をはじめ、このほど3名のデリゲーションがやってきた。日本からの投資を呼び込むためだ。特に日本は半導体の歴史が深く、アイルランドにも日本企業は、半導体関係の研究開発や製造において東京エレクトロンやレーザーテック、ニコンなど比較的多い。

さらに半導体だけに絞ると、欧州全体で半導体業界に従事する20万人中、アイルランドの半導体専門家は2万人以上に及ぶ。国全体の人口が530万人しかいない中で、この数字は大きい。そして2020年〜23年までの半導体分野の海外直接投資額においてアイルランドが欧州で上位3カ国に入ったという。また、日本は半導体で再びかつての栄光を手に入れようとしている、という海外メディアの記事が多く、日本の半導体が再び注目されている。ラピダスの設立から工場建設、その前にTSMCの熊本工場建設などの話題が採り上げられているからだ。

アイルランドの魅力は人材が若いことだ。平均年齢は36歳。人口が増えていることも魅力的だ。8年前は500万人しかいなかった人口が、この8年間で30万人が増えた。そして理系のSTEM(科学・技術・工学・数学)教育に重点を置いている点も魅力的で、研究開発や製造業の労働力が相対的に多い。アイルランド全体のSTEM教育を受けた人材は60%に及ぶとしている。

Tierney Le-Roux氏によると「現在は有能な人材は足りているが、将来は必ず不足する。このためアイルランドにも拠点があるQualcomm社は、500名の社員を抱え、アイルランドの大学と協力してQualcomm Lab(クアルコム研究室)を設置、講座を通じて人材を育成している。大学に寄付してくれるスポンサー企業も多い」と言う。

人材に関しては多様性(ダイバーシティ)を重視する。現在でも人口のうちの15%は国外から来ており労働力となっている。女性のSTEM教育も進めており、理系の女性の割合は多いという。女性エンジニアをさらに増やすため、5歳から13歳までの女子を対象にどのような女性エンジニアの仕事があるのかを学校と企業がタイアップして教えているという。小学校の段階で将来の女性の仕事を紹介していれば、高校や大学の時に自分の意志でエンジニアの道を選ぶことができるようになる。STEMだけではなく経営層でも女性の多い国であり、特にシニアレベルでも女性が多いという。

アイルランドの半導体工場では、特にIntelの工場には4nmノードとなる「Intel 4プロセス」の最新設備を2023年10月に導入、稼働開始した(参考資料1)。Intelにとって米国外の工場としてFab34と呼ぶ最新工場だ。ADIの扱うアナログICは、ロジックと違って微細化を必要としないものの、賢い回路設計に合ったプロセス技術が必要である。同社は工場を同国西側のリムリック市に持っている。

アイルランドのもう一つの魅力は、EU(欧州連合)内にいることだ。このためEU域内からも自由に行き来できる。アイルランドは外国から働きに来る人材を支援する。技術スキルがあれば歓迎する。IDA Irelandは半導体産業の重要性を深く認識しているため特に半導体に目覚めた日本企業を呼びたい、とTierney Le-Roux氏は言う。アイルランドにはマイクロエレクトロニクスの研究所としてTyndall Instituteがある。600名のスタッフを抱え、半導体やフォトニクス、材料などを研究しており、パイロットラインも備えているという。Tyndall研究所はドイツのFraunhofer研究所やフランスのCEA-Letiともコラボレーションしているという。

IDA Irelandは国外から投資を呼び込むためのインセンティブを用意している。人材や土地、インフラ(電力、ガス、水など)などを一つのパッケージにして呼び込むわけだが、土地はIDAがすでに取得し、それを提供する。通常の法人税は15%だが、税制優遇策(Tax Credit)も用意しているという。

今後、EUのコンピ―テンスセンターを設立する計画で、コンソーシアムを作りTyndall研究所もその中心メンバーとなって動いている。このEUコンピーテンスセンターはEUのCHIPS法案から資金提供が期待できるという点も魅力的だ。

参考資料
1. 「Intelが4nmプロセス生産開始、TSMCは3D・先端パッケージの設計ツール開発」、セミコンポータル、(2023/10/02)

(2024/12/20)
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