台湾が狙う新しい成長市場はSD-Vクルマ技術
カーエレクトロニクスが転換期に来ている。従来の制御系からIT化・デジタル化が進展してきたことで、「IT立国」台湾の出番がやってきた。10月30日には日本と台湾のコラボレーションを目的とする「日台産業連携架け橋フォーラム in 東京」(図1)が東京のホテルオークラで開催され、台湾が自動車産業へ乗り出してきたことが明白になった。半導体ではnmオーダーのプロセスが求められる。

図1 「日台産業連携架け橋フォーラム in 東京」の光景 出典:台湾資訊工業策進会
台湾には自動車産業がなく、これまで簡単なノックダウン生産さえなかった。このため台湾では自動車産業との関係を持つことができなかった。自動車が従来の機械部品主体からシリコンへと変わってきてもカーエレクトロニクス向けのシリコンは数十nmプロセスが主体で、先端技術を利用する台湾の半導体メーカーとも疎遠だった。TSMCが熊本に工場JASMを建てた時も28nm/22nmプロセスを進めるとしていた。先端が欲しい経済産業省には先端の3nm/5nmプロセスではないことに不満が残った。
かつてのカーエレクトロニクスは主に制御系が主体であり、燃費の改善や排ガス規制対策などを目的としていた。今は安心・安全を主体とするクルマ作りに変わり、制御系は欠かせないが、ここにITが入ってきた。そこで3nm/5nmの先端プロセスも必要となってきた。
台湾には先端プロセス製造のTSMCと先端プロセス設計のMediaTekがいる。いずれもこれからの成長分野として自動車を狙っている。TSMCは言うまでもないが、モバイルを主体としてきたMediaTek会長のMig-Kai Tsai氏は、6月のComputex Taipeiにおいて、NvidiaのJensen Huang氏とSD-V(Software Defined Vehicle)について議論しており、MediaTekがSD-Vはクルマに進出できる良い機会になることを示した。Jensen Huang氏は、SD-Vに対して「クルマというハードウェアは15年保証しなければならないため、新しい機能をハードで追加しにくいが、ソフトウエアならいつでも更新できる」として、新しい機能の追加をソフトウエアで行えるクルマをSD-Vと定義した。
今回のフォーラムでは、EMSのPegatronの車電事業部特別補佐であり、台湾先進車用技術発展協会の副分会長でもある林根源氏は、ACES(CASEともいう)が進行しており、4つのトレンドを示した。コックピットの統合プラットフォーム、HMIの多感覚インタラクティブ、没入型エンターテインメント。そして個人化である。いずれもコンピュータシステムであり、ディスプレイも伴う。半導体は、音声認識(AI)、タッチやジェスチャー入力、視線追跡、ADAS、携帯電話ソフトとの互換性、ドメインコントローラやゾーンコントローラ、中央のコンピュータ、ドライバーの健康状態などコンピュータベースのシステムに使われる。このため、微細化が求められるようになる。
日本には世界一の自動車産業があり、またサプライチェーンは従来のティア1、ティア2など垂直統合型から水平分業型へと変化してきている。例えばかつてトヨタの子会社であったデンソーの出荷先として、トヨタ向けは50%を切るようになっている。こういった水平分業は台湾ビジネスの得意とするところ。このため日本のOEMと手を組みたいと狙っている。