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メーカーとサプライヤの関係が逆転するTSMCとNvidiaの新技術

メーカーとサプライヤとの関係がひっくり返る事例がNvidiaとTSMCとの間に見られる。これまではファブレス半導体としてのNvidiaが設計したチップをTSMCが製造するという関係だった。今度はTSMCがメーカーとなり、プロセス中によく使うリソグラフィ工程でより正確なマスクを作製するための計算に、サプライヤであるNvidiaのGPUを利用するのだ。

CUDA-Xライブラリの計算機リソグラフィツールCuLitho によるチップの例

図1 CUDA-Xライブラリの計算機リソグラフィツールCuLitho によるチップの例


半導体プロセスのリソグラフィ工程におけるマスク作製に、NvidiaのGPUとそのソフトウエアCUDA、さらにCUDA-Xライブラリの一つであるCuLithoを利用したことで、「性能が大幅に向上した。スループットが劇的に向上し、サイクル時間が短縮、消費電力も減少した」、とTSMCのCEOだったC.C.Wei氏が今年のはじめのGTC Conferenceで話していた。10月8日に開催されたNvidia AI Summitでは、従来よりも45倍改善したと同社エンタープライズプラットフォーム担当VPのBob Pette氏は話している。

同日のNvidiaのブログ(参考資料1)では、CuLithoがすでにTSMCに使われて大きな成果を上げていることを明らかにしている。加工するシリコンウェーハのパターン配線幅と配線間隔が光の波長よりも短くなるほど微細化すると、パターン通りのレジストパターンが出来なくなる。このためOPC(Optical Proximity Correction)技術によってパターンを太くしたり丸めを追加したり、細くしたりする、など補正を行ってきた。補正されたパターンは、回路図のパターンとは全く違うものになるが、露光するとほぼ意図したとおりのパターンを描くのである。

すでに193nmのArFレーザー時代から90nmなどの加工に使われてきた技術ではあるが、パターンの補正だけではなく、パターンそのものの向きを揃える、光源の最適な形にする、水の屈折率を利用する、などさまざまな技術を駆使することで、波長限界をより遠くへ押し出してきた。これが限界に来た時に、所望の配線ピッチを半分だけずらして再度露光するダブルパターニングや3回露光するドリプルパターニングなども使ってきた。しかしスループットが半分あるいは1/3に落ちるため、波長13.5nmのEUVが使われるようになった。

EUV露光でさえも、3nmプロセスや2nmプロセスに相当する実際の配線幅が10nm程度になってくると、これまでのように試行錯誤的に最適なパターンを作るのではなく、最初から計算機を使って、加工したいパターンに合うような最適なパターンを計算するようになってきた。これが、NvidiaがTSMCへ納入するGPUと、ソフトウエアCUDA、CUDA-Xライブラリの一つであるCuLithoを利用する計算機ベースのリソグラフィ技術である。

CuLithoには、Maxwellの電磁界解析や、レジストの微細な反応を表す光化学、OPCなど光の回り込みや回折による現象を解析する寸法の計算手法などに加え、これまで何度もイタレーション(実験と結果の繰り返し)をしてきた経験値や数学的な汎関数演算などの極めて複雑な計算手法を装備している。いわば、さまざまなモデルと計算手法のノウハウの塊である。

ファウンドリには、このための専用のデータセンターがある。先端ファウンドリには、年間で数百億時間のCPU時間をコンピュータ計算していた。一つのSoCの代表的なフォトマスクセットでは3000万時間というCPU時間がかかっていたという。アクセラレーティングコンピュータ演算では、4万個のCPUは、NvidiaのH100 Tensor Core GPUベースのシステムなら350個で済むとしている。つまりGPUとCuLithoシステムを使えば、コストとスペース、消費電力を大幅に削減できるとNvidiaは主張する。

これまでNvidiaのGPUは消費電力が大きいと言われてきたが、Nvidiaは持続可能なコンピュータ技術を開発するためにGPUの性能を上げてきたという。NvidiaのBob Pette氏は、「10年前のGPUである『Kepler』は、1.8兆パラメータのGPT-4を学習させるのに、5,500 GWhもの電力を消費するが、最新のGPUの『Blackwell』だとわずか3GWhしか消費しない」というグラフを見せた。もちろん、AI研究者は10年前、これほど巨大なデータを学習させようと考えることはなかった。それを学習させるために膨大な時間がかかるため、みんな諦めていたのだ。しかし、諦めなかったOpenAIが生成AIを生んだのである。GPUをはじめとするAI半導体は、むしろこれからが本番である。

参考資料
1. “TSMC and NVIDIA Transform Semiconductor Manufacturing with Accelerated Computing”, Nvidia Blog, (2024/10/08)

(2024/10/11)
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