大手通信機器Nokiaに見る、ネットワークにおけるAIと生成AIの利用法
Nokiaは携帯電話やスマートフォンの基地局における通信機器を開発製造する会社だ。もはやかつてのような携帯端末メーカーではない。通信品質を上げ、携帯電話ユーザーの満足度を上げるためにこれまでもAIを使ってきたが、このほどAIの利用をデジタルツインに適用したり、生成AIで通信状況を聞いたり、異常を検出したりなど、拡大させている。6G通信にはAIが欠かせないと見る。

図1 NokiaのLLMによるデジタルアシスタントでネットワークの状況を問い合わせている 筆者撮影
Nokia やEricssonは、AI/MLを使って通信ネットワークの中に一カ所に集中させないように分散させて効率化したりSON(自己管理ネットワーク)ソリューションを導入したりして、ネットワーク管理の自動化を進めることなどにAIを活用、無線ネットワークの性能を落とすことなくエネルギー消費を減らしている。
RAN(Radio Access Network)はもともと基地局内部にあったが、最近はオープンRANなどにより演算主体の部分を基地局内に置かずクラウドで行う処理が浸透しつつある。Nokia Cloud RANではNvidiaの最新CPU「Grace」がレイヤー2(L2)に置き、L1アクセラレーションレイヤー(L1)にGPUを置くような構成になりそうだ。ここに先端のAIチップを導入する。
通信システムにおけるAIの活用はさらに広がっている。LLM(大規模言語モデル)をベースとした生成AI「Nokia LLM AI Engine」を作り(図1)、「毎日スマートに学習させている」と同社RAN製品ラインマネジメント担当製品管理部門の責任者であるBrian Cho氏は述べている。このAIエンジンはNokia AI Digital Assistantとしてさまざまな通信事業に関して問い合わせるとAIアシスタントのように答えてくれる。
また、異常を検出するための「Nokia Hazard Detection Lens」と呼ぶリアルタイムのビデオ監視システムにもAIを導入し、安全性が低下するとAIがアラートを発するようにしている。AIが煙を検知して火災のアラームを鳴らすこともできるようにしている。
デジタルツインにもAIを採り入れている。基地局をビルの屋上に設置する場合、ビルの林立する街を3D-CADで表現し、ビル一つをスモールセルとして扱い、例えば三つのビルからの電波を吹き出す向きが正しいかどうかをシミュレーションでチェックする(図2)。実際のビルに通信平面アンテナを設置する前にシミュレーションで具体的なビルの上のどの向きに何台置くべきかについてもチェックしておけば(図3)設置期間の短縮になる。
図2 都市のビルを3D-CADで設計しデジタルツインで電波状況をシミュレーションする場合にもAIを使う
図3 ビルの屋上に設置した基地局平面アンテナの向きを調整するデジタルツイン
生成AIは、サイバーセキュリティにも使われる。オフィス内の誰のパソコンが攻撃を受けているかをAIで点数をつけ、それを可視化するのだ。図4のデモでは、攻撃を受けてしまった怪しいパソコンのスコアが79点と異常に高い人のパソコンが怪しいと判断している。
図4 サイバー攻撃を受けたオフィス内のパソコンに点数をつけ、高得点だと怪しいとAIが判断する
Nokiaは独自の半導体チップを設計しているが、その理由はエネルギー効率を上げ、少ない電力で性能を上げるためだ。Nokiaにとってカーボンニュートラルに向けたエネルギー効率の向上は目標の一つである。独自チップはその流れの一環となる。