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計測機器メーカーKeysightが6G通信を追求する理由

モバイル通信の新しい規格6G(第6世代のモバイル通信規格)のディスカッションが3GPP(3rd Generation Partnership Project)で始まった。3GPPは欧州を中心にモバイル通信の標準規格を決める団体。基本的には5Gの延長としての通信となるが、利用する周波数帯をはじめとする無線技術RAN(Radio Access Network)と、SA(System Aspect)から利用シーンの議論が始まっている。高周波測定器が得意なKeysight Technologyも積極的に参加している。

Keysight Roger Nichols氏

図1 Keysight Technology 6G Program ManagerのRoger Nichols氏


Keysightのような測定器メーカーは、測定器内に搭載する半導体デバイスとして、測定する半導体製品よりも高性能な最先端チップを使う。このため最先端技術情報のキャッチは欠かせない。3GPP会議に参加したKeysight Technologyの6G Program ManagerであるRoger Nichols氏は、なぜ6Gかについてさまざまな人から質問を受ける。これに対して三つの理由を挙げる。まずは加入者が利用するデータ量が増えすぎているからだ。モバイルデータの使用量は2015年に毎月6EB(Exa bytes=10の18乗バイト)から2023年には150EBに跳ね上がっている。次にゲームなどのエンターテインメントや農業・鉱業・金融などからの需要も強い。最後に教育や医療、交通、政府など社会的な要求も出ているという。このためデータレートをもっと速くする必要がある。

6Gに関する3GPPの最初の会合は、2023年12月に開催され、これからのタイムライン(図2)と利用シーンに関して議論された。標準規格リリース19(Rel 19)に初めて6Gが公式に登場するが、これまでは研究段階であり、タイムラインも決まっていなかった。実際に商用化が始まるのは2029〜2030年ごろの見込みだ。ITU(国際電気通信連合)での標準化案も含めてリリース22で最初の仕様が決まるという。


3GPP and ITU-R Timeline for 6G / Keysight Technology

図2 5Gから6Gへのタイムライン 出典:Keysight Technology


3GPPの中のTSG(Technical Specification Group)グループでは、RANとSAそしてCT(Core Network and Terminals)という三つのグループで構成されている。RANグループでは周波数帯に関して議論され、IMT(International Mobile Telecommunications)の周波数スペクトルでは米国を除き、6.425〜7.125GHzが割り当てられた。米国では5.925〜7.125GHz帯はライセンス不要の周波数帯だからだ。その代わり米国向けに10〜10.5GHzが割り当てられた。

また6GではRANスペクトル以外の技術では、AI/機械学習を定義から始めて技術基盤とする考えや、デジタルツイン、地上波以外のネットワークなどがある。5GではアドオンだったAIを最初から導入するための基盤作りを行う。つまり、無線で使う学習アルゴリズムの開発を行い、結果と一致するように学習データを洗練していくが、学習データセットを生成したりアルゴリズムの性能を確認することがチャレンジとなるという。

大規模なデジタルツインを構築し、通信事業者はシミュレーションデータからリアルを予測する。例えば、新しい方式を検討する場合などにシミュレーションを使って評価するという使い方を最初から導入していく。

そして地上波以外のNTN(Non-Terrestrial Network)通信とは、地上の基地局通信だけではなく、それ以外の通信ネットワークを使う。衛星通信に加え、成層圏より上でHAPS(High Altitude Platform Station)や無人飛行体などを飛ばしながら基地局機能とする。あるいは海中での通信技術も開発する。従来の地上波基地局を含め、6GではOpen RAN方式(無線部分とデータ処理部分を分離し、誰でも参入できる通信機器とする方式)が主流になるとNichols氏は見る。

Keysightがこれからの6Gモバイル通信において、周波数や信号強度などを計測する単なる測定器メーカーではなく、測定データが本当に信頼できるのか、測定データをトレースするサービスビジネスを提案している、と同氏は述べている。6G時代には計測器メーカーの新しい役割やビジネスを進めていく可能性が高い。

(2024/02/21)
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