Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 産業分析

SiC、車載向け800Vインバータ、OBCの実回路を示す時代へ、GaNも車載可能に

SiC・GaNのWBG(Wide Band Gap)半導体がもはや単体ではなくシステムボードを競い合う時代に入った。東京ビッグサイトで開かれたオートモーティブワールド2024では、パワー半導体トップのInfineon Technologiesと、SiCトップのSTMicroelectronicsがガチンコ勝負を見せた。InfineonがGaN応用製品ポートフォリオを示し、STは8インチウェーハSiCデバイスとシステムを見せた。

最先端8インチSiC結晶ウエハ / STMicroelectronics

図1 STMicroelectronicsが業界初めての8インチSiCウェーハを公開 左が生のウェーハ、右が作製されたMOSFET


InfineonはGaN HEMT(High Electron Mobility Transistor)を使った1kWのモーターインバータから10kW/800Vや22kW/800VのOBC(オンボードチャージャー)まで揃えた。一方は、STは業界初の8インチSiCウェーハとそれで作ったMOSFETを示した(図1)。それだけではなく、次世代EV向けの800Vのトラクションインバータのリファレンスボードを実際に示し、さらに22kWのOBCとDC-DCコンバータの評価ボードも示した。しかもInfotainment系で使っていたデュアルコアのMCU製品である「Stella」を制御系にも、冗長構成などに応用できることを示した。

SiCやGaNはバイポーラ特性のIGBTとは違い、スイッチオフ時の少数キャリア蓄積時間がなく高速であることから、スイッチング周波数を上げ周辺のL(インダクタンス)やC(キャパシタンス)を小さくできる。反面、高速動作させると周辺や寄生のLやCなどの影響でリンギングやオーバーシュート、アンダーシュートが生じノイズを発生させやすかった。このため速度を少し犠牲にして波形をなまらせる、といった工夫が必要で回路の知識がないと設計が難しかった。

ところが今回、Infineon、STとも実際のリファレンス回路設計ボードを展示し、WBG半導体の実回路設計に示し、リファレンスボードを展示した。しかも次世代800VのEV(電気自動車)に対応するため、耐圧1200VのSiCを使って共にOBCやトラクションインバータなどの回路ボードを作製した。

InfineonはさらにSiCに加えGaNでも、1kWの電動自転車やバイクに使える小型(名刺の半分)リファレンスボードを展示したり(図2)、600VのGaN HEMTを16個使い、オムロンと共同で、家庭用の小型充電器を開発した(図3)。家庭でEVを充電するための設備で、これまでのものの約半分の大きさになっている。


小型リファレンスボード / Infineon

図2 GaNを使ったInfineonの超小型インバータリファレンスボード(右)


GaN採用 マルチV2Xシステム「KPEP-Aシリーズ」 / Infineon

図3 オムロンと共同で開発したInfineonの家庭用EV充電器 従来の半分のサイズ


Infineonは、EV用のOBCにGaNを使ったことでOBCの小型化を狙った10kW/800Vの回路ボードを製作した(図4)。同社が独自開発したGaN HEMTであり、周波数520kHzでスイッチングさせることで小さなLとCを使えるため、手のひら幅のサイズに収まった。


GaN HEMT回路 / Infineon

図4 600VのGaN HEMTを使ったInfineonの高速OBC回路


STも次世代EVシステムは800V系になることを見込んで1200VのSiCでトラクションインバータボード(図5) と、OBC+DC-DCコンバータボード(図6)を作製した。トラクションインバータのマザーボード(上から2番目の回路ボード)では12個のSiC MOSFETを両面から水冷するという放熱システムを導入している。効率の良いWBG半導体はボードを小さくできるというメリットがある。


トラクション・インバータ・ソリューション / STMicroelectronics

図5 STMicroelectronicsの1200VのSiCを使ったトラクションインバータ


22kW OBC & DC-DC コンポ 評価キット / STMicroelectronics

図6 STMicroelectronicsのOBCとDC-DCコンバータを搭載したリファレンス回路ボード(右)


さらにOBCでは、DC-DCコンバータ回路も搭載しており、インバータに比べるとやや大きいものの、バッテリを充電するOBCと、800Vから車で使う12Vや5Vなどの直流電圧に変換するDC-DCコンバータを含めていることを考えると、空間に制約のある車載用途に向く。

STは、マイコン開発ボードも用意しており、ArmのデュアルコアStellaを使ったマイコンを車載向けにも提供する。車載向けではデュアルコアを冗長構成に利用できるが、そのために車載向けの安全使用規格ASIL-BにもASIL-Dにも対応できるようにしている(ASILは安全性の優先度によってAからDまであり、Dが最も厳しい)。

これらの開発ボードには 6インチウェーハのSiCが使われているが、さらなる量産化に対応する。SiCデバイスを量産するイタリアのカターニア工場への投資を増やしている。STのSiCが最初にTeslaのModel 3に搭載されて4〜5年経ち、信頼性の実績が出てきたため、SiCを採用する自動車メーカーが続々増えている。Yole Developpementが示したOEM(自動車メーカー)と半導体メーカーの関係図では現代自動車しか示されていなかったが、名前を出せないOEM企業がさらに多数あるようだ。

STもInfineonも共にWBGパワー半導体だけではなく、それを駆動するためのドライバICや、ドライバICに指令を出すマイコンまで揃え、システムを提示できる半導体メーカーとなっているため、当分1位、2位を争いながら成長し続けていくだろう。まずはSiCの量産化で競い合い、さらに高速の次世代GaNへとシフトしていくことになりそうだ。

日本企業では三菱電機がSiCデバイスを6個一組のモジュールだけではなく、ディスクリートパッケージ品や3個組などの製品も示し、多様な製品を多様なユーザーに向け始めた。

(2024/01/26)
ご意見・ご感想