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クルマが走るデータセンターになる可能性、高まる

クルマは走るデータセンターに似てきた。ドメインコントローラやゾーンコントローラによる仮想化、光ファイバによる800Gbpsの超高速転送、生成AIによる巨大なソフトウエアを処理するための大容量転送、さらにカスタムAIアクセラレータなど、高まるデータセンター需要に対抗する高集積ICに特化するMarvell Technology。車載向けもこれと似ている。

Will Chu, SVP,Marvell Technology, Mike Buttrick, VP, Marvell Japan

図1 Marvell TechnologyのCompute and Custom Business Unit担当シニアVP兼ゼネラルマネージャーのWill Chu氏(左)とマーベルジャパンのカントリーマネージャー兼セールス担当VPのMike Buttrick氏(右)


データセンター向けチップに特化してきたMarvellがクルマ用半導体にも進出している理由は、データセンターに似てきたからだといえそうだ。同社の企業理念は、「世界中のデータを高速・高信頼性で、転送・蓄積・処理・保護するための半導体製品を開発・提供すること」だと同社シニアVPのWill Chu氏(図1)は語る。このため、データセンターと基地局の市場に特化したユニークな企業だが、さらに車載向けもあるのは、データセンターに似てきたからだ。

データセンターでは、転送するデータにデジタル変調を掛けるためのDSP(digital signal processor)や、コヒーレント光ファイバ通信を実現するスイッチICや、モジュールなどの製品などがある(図2)。それも51.2Tbpsのスイッチや、800Gbpsの通信もモジュールである。データの蓄積に関してはフラッシュSSDのコントローラも開発している。


クラウド:完全なネットワークソリューション / Marvell Technology

図2 データセンターにクラウド向けのソリューションを揃えている 出典:Marvell Technology


通信基地局では、RFフロントエンドのような高周波無線技術以外のデジタルベースバンド以降の基地局やバックホールに欠かせない製品群を持つ(図3)。基地局は、無線ユニット(RU)と分散ユニット(DU)に分解され、昔からの通信機器メーカーだけの寡占化を許さないオープンなRAN(Radio Access Network)アーキテクチャに転換され始めている。このため、NECや富士通のような日本の通信機器メーカーにとっても海外の通信オペレータに採用される可能性が出てきている。また、基地局内では2024年から10GbpsのEthernetが採用される予定だという。


5Gインフラストラクチャー全域にマーベルシリコン / Marvell Technology

図3 基地局RAN向けのソリューション 出典:Marvell Technology


クルマ市場では、ギガビットEthernetのPHYチップや、10Gbit/sのEthernet PHYチップなどが求められるが、これはカメラ映像をCu配線で送るために欠かせないからだ。例えば30fps(frames per second)のカメラ映像をHD仕様で転送するためにはGbit/sの転送レートが必要になる。さらに2台、3台など複数のカメラ映像を合成するような衝突防止機能や、4台のカメラ画像を合成するサラウンドビューカメラなどはさらなる高速転送レートが求められる。

また各所に散らばっているECU(電子制御ユニット)を複数個まとめる仮想化技術を使う新ドメインコントローラやゾーンコントローラでも(図4))さまざまなデータを1本のシリアルデータにして転送するとなると高速性が求められる。高速転送技術に長けているMarvellにとって、クルマもデータセンターと同じに見えてくる。


ゾーンアーキテクチャーへの移行 / Marvell Technology

図4 場所ごとにECUを束ねるゾーンアーキテクチャと、機能ごとに束ねるドメインアーキテクチャ 出典:Marvell Technology


ただ、日本のOEM(自動車メーカー)は、欧州で多用されているゾーンアーキテクチャではなく、ドメインアーキテクチャが多い。このため機能別にはまとまるが、それぞれの機能は車内で分散しているため、配線のごちゃごちゃ感は変わらない。これに対して、欧州ではゾーンアーキテクチャを優先させ、配線をゾーンごとに束ねてすっきりさせているとMarvellはいう。

Marvellがクルマに進出している理由と全く同様に、QualcommのCEOであるCristiano Amon氏は、「クルマは新たなコンピューティング分野だ」と、CES 2024で述べている。Snapdragon Digital Chassisをクルマに組み込み、SaleforceはクルマからCRMを行おうとしているという。Marvellがクルマをデータセンターと見ていることに対してQualcommはコンピュータプラットフォームと捉えている。スマホやPCなどのコンピュータ上でやり取りしていることを車内でも行えることに期待している。

(2024/01/12)
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