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RISC-Vの開発ボードを提供するQuintauris社を半導体5社でミュンヘンに設立

欧州勢がクルマ向けのSoCを狙い、RISC-Vリファレンスデザインの開発ボードを提供する会社Quintauris社をドイツのミュンヘンに設立した。欧州を中心に半導体企業5社がこの会社に出資した。RISC-Vは日本以外では注目されており、米国と中国が特に熱心だ。欧州でもその動きが出てきた。日本だけがRISC-Vをいまだに様子見状態している向きが多いが、大丈夫か?

RISC-V(リスクファイブ)は、RISC(Reduced Instruction Set Computer)本来の少ない命令セットで動くコンピュータアーキテクチャ。教育用にカリフォルニア大学バークレイ校のDavid Patterson教授やKrste Asanovic教授らが開発した。このため、商用化されたCPUにまで仕上げるのに、誰でも自由にマイクロアーキテクチャを開発できるようにフリーとしている。

x86系CPUのようなCISC(Complexed Instruction Set Computer)とは違い、RISCは命令セットが簡単なはずだった。しかしRISCアーキテクチャのArmのCPUでさえ、今や500命令もある。これまでの互換性を考慮しながらCPUコアを発展させてきたからだ。しかしRISC-Vは、わずか47命令を基本とし、顧客のシステムに応じて命令セットを追加できるような専用CPUに向く。

このため、パソコンやサーバーのx86系CPUと、スマートフォン向けのArmベースのCPUに加えて、カスタム色の強い専用CPU(組込システム用CPU)としての位置を狙っているのがRISC-Vである。クルマやIoTなど組込システムには軽くて速く消費電力の少ないCPUとしての地位をRISC-Vが狙う。

クルマは、ドメインアーキテクチャやゾーンアーキテクチャなど仮想化技術が入り込み、今やクルマはSD-V(Software Defined Vehicle)になる、とトヨタ自動車の豊田章夫会長に言われるような時代になりつつある。こういった新しい用途でこれまでの古いアーキテクチャで高性能、低消費電力を追求するのか、新しい簡単な命令セットのカスタムアーキテクチャで追及するのか、といった選択肢が出てくる。欧米中国がRISC-Vの可能性を発展させようとしているが、日本の半導体は依然としてルネサスエレクトロニクス、NSITEXE(エヌエスアイテクス)を除き様子見が続いてきた。

そのような中で今回、Robert BoschとInfineon Technologies、Nordic Semiconductor、NXP Semiconductorsの欧州4社と米国Qualcomm Technologiesの1社が出資して新たなRISC-V企業「Quintauris」を設立した。

新会社の狙いは、RISC-Vコアを使った半導体SoCを世界中に広めるため、そのリファレンス設計ボードを提供することにある。様々な半導体企業とのコラボレーションによって、共通のリファレンス設計ボードがあれば、チップをすぐに評価できるようになり、RISC-V採用する半導体メーカーにとっては、さまざまなチップをすぐに開発しやすくなる。


Alexander Kocher, CEO, Quintauris

図1 Quintauris社長兼CEOのAlexander Kocher氏


Quintaurisの社長兼CEOとなるのはAlexander Kocher氏(図1)。自動車向けの組込系ソフトウエアベンダーのElectrobitの社長兼CEOを務めていた。その前は、リアルタイムOSなどのWindRiver社のVP兼自動車事業部門長を務め、さらに、それ以前にはティア1サプライヤーのContinentalやSiemens、Infineonなどにも勤めていた

RISC-V向けの開発に向けたRISE(RISC-V Software Ecosystem)と呼ばれるグローバルなコンソーシアムがあり、IntelやNvidia、Qualcomm、Andes Technologyなどの企業やGoogleやRedHatなどが参加している。この組織は、オープンソースのLINUX Foundationのプロジェクトの一つとなっており、RISC-Vコア向けのソフトウエア開発ツールを開発する。これに対して、QuintaurisはRISC-V向けのハードウエア開発ボードを開発する。

ハードウエア開発ボードをRISC-Vの標準にすることによって、RISC-Vコアを使う専用SoCの開発期間の短縮できるようになる。EU(欧州連合)ベースのこの新会社は、自動車向けSDVに向けた車載コンピュータに使うRISC-Vコアでのグローバル覇権を狙っている。欧州が強い自動車産業向けに着々と手を打っているようだ。日本はデンソーの子会社のNSITEXEがRISC-VのIPビジネスを細々と展開していたが、デンソーはこの子会社を吸収合併し連携を強固にすることを決めている。日本の半導体メーカーではデンソーとルネサスの2社だけがRISC-Vコア製品を扱うに留まっている。

(2023/12/28)
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