産総研が10〜20nmプロセス開発を検討中
産業技術総合研究所が10〜20nmプロセスの開発を検討していることがわかった。同研究所は、社会問題を解決することと産業競争力を高める支援をミッションとし、半導体産業全体を俯瞰している。昨年ラピダス社の誕生と共にLSTC(最先端半導体技術センター)も生まれた。さらにこの10月から先端半導体研究センター(略称:SFRC)も発足した。半導体に力を注ぐ産総研の今をレポートする。
図1 産業技術総合研究所の理事長兼最高執行責任者の石村和彦氏
産総研の理事長兼最高執行責任者として、AGCの社長・会長を経験してきた石村和彦氏(図1)が就任して以来、社会実装を推進してきた(参考資料1)。1年前に初めて開いた理事長とメディアとの懇談会では、上場企業が四半期ベースで決算を公開していることと同様、産総研ももっとオープンに社会実装に力を入れよう、という考え方に変わった。
このほど開いたメディア懇談会では、10月1日に発足した先端半導体研究センターの位置づけや、10〜20nmプロセス開発などを明らかにした。先端半導体研究センターは、2nm以降の微細プロセスノードの開発・試作を行う。では、2nmプロセスを開発するLSTCとの違いは何か。
2nmプロセスの開発を目的として2022年12月21日に生まれたLSTCであるが、技術研究組合LSTCの組合員はラピダス、物質・材料研究機構(NIMS)、理化学研究所、そして産総研である。準組合員として、9国立大学と高エネルギー加速器研究機構が参加している。LSTCでは、2nm以降の半導体を短TAT(Turn Around Time)で製造するのに必要な回路設計・デバイス・製造装置/材料技術を開発する。ここで開発された技術をラピダスに移転することになる。
組合員である産総研では、新たな先端半導体研究センターが、2nmプロセスの実働部隊となる。産総研と一口にいっても、研究推進組織としてエネルギー・環境領域や生命工学領域など8つのサブ組織に分かれており、エレクトロニクス・製造領域はその一つである。そのエレクトロニクス・製造領域は、製造技術研究部門やデバイス技術研究部門、電子光基礎技術研究部門など7部門あり、先端半導体研究センターはその一つである。ここがLSTCの2nmデバイスとなるGAA(Gate All Around)FET技術や、先端材料開発、3次元実装技術を開発する。
ただ、半導体市場を見ると、2nm、3nmと称する高集積プロセスはスマートフォンとハイエンドコンピュータという限られた市場でしか使われない。様々な応用に使われ、かつ高性能な市場では14/16nm〜28nmプロセスが多い。ここが半導体製品のボリュームゾーンと見られている。しかも最小線幅は12nm程度の2nmプロセスと比べ、配線幅やピッチはさほど大きな差はない。
日本の半導体製造は40nmで止まったままだ。かつての半導体メーカーの中には「40nm以降は開発しなくていい」と触れ回った中間管理職がいたという。エンジニアのやる気は消えた。その半導体部門がとある外資系半導体企業に買収された時、外資系CEOは、ファブレス、ファブライトだから「28nmも20nmもどんどん開発してくれ」とエンジニアを鼓舞し、エンジニアたちはとても勇気づけられたと述べている。
日本の半導体企業は大量生産のDRAM事業から撤退し、少量多品種のシステムLSIへと移行し、ファブライトやファブレスを指向したはずなのにもかかわらず、設計ノードの微細化を全く進めなかった。このことも半導体を弱体化させた一因である。
産総研がこの10〜20nm台のボリュームゾーンの開発を検討している理由はそれだけではない。これまで、半導体製造装置や材料の開発は海外の半導体メーカーと共同開発しながらやってきたが、「全て海外企業に任せてよいのか。技術ノウハウが漏れないのか」という疑問がわいてきたという。いずれ製造装置メーカーも弱体化するかもしれないという危惧もある。
実際の開発となると、産総研内にあるスーパークリーンルームを使用することになるが、これを管理しているのはTIA(つくばイノベーションアリーナ)推進センターである。産総研内の半導体研究センターが作られたのは、このスーパークリーンルームを自由に使えるようにしたことも大きな理由のようだ。半導体研究センターはここに2nmのプロセスラインを構築する。ただ、10nm~20nmの新たなプロセス開発の具体的な検討はこれから始まるとみられる。
参考資料
1. 「産総研が大きく変わる;研究成果の社会実装に力を注ぐ」、セミコンポータル (2022/11/10)