テキサスからグローバル市場に成長し続けるMouserの秘密
テキサスの地方都市からグローバルに展開を始めて十余年、オンラインの電子コマースの電子部品ディストリビュータであるMouserがトップ争いを演じるまでに成長した。2022年の販売実績は前年比23%増の40億ドルに達した(図1)。さすがに23年は少し落ちる見込みだが、グローバルでの購入者数は今年上半期で同2%増の56.8万人となった。成長の秘密は何か。
図1 ここ5年のMouserの販売額 出典:Mouser
Mouserがグローバルへの展開を始めたのは2008年からだった。今や世界中28カ所にオフィスを設置、地元の北米をはじめ、欧州・中東、アジア太平洋へと大きく展開してきた。近いうちにリトアニアのビリニュスとオーストラリアのメルボルンにもオフィスを構える予定である。実在庫品番数は108万4670と増えた。Mouserは最も多い品ぞろえの数だ、と同社Global Service &APAC and EMEA担当SVPのMark Burr-Lonnon氏は言う(図2)。
図2 Mouserの役員たち 右からMark Burr-Lonnon氏、Daphne Tien氏、勝田治氏 出典:筆者撮影
同社の成長を支えた理由は、もちろんインターネットを最大限利用してきたことが一番だが、それだけではない。営業部門を置かないもののマーケティングに力を注ぎ、ウェブサイトを充実してきたほか、実際の展示会にも出展し、ブランド認知やコミュニケーション、ソリューションの展示などエンジニアへの露出を強化してきた。モノづくりワールドやオートモーティブワールド、テクノフロンティアなどの展示会場で実物を見せるように努めてきた。
テクノロジーの個人的なDIY(Do It Yourself)であった「Makers Movement」の動きは去ったものの、Mouser独自の「Maker Faire Tokyo」を今年も開催した。未来のエンジニアとなる若者と今のエンジニアとの出会いの場となるイベント(図3の右)として、イノベーティブなアイデアの実現をサポートしている。
図3 Mouserが開催したMaker Faire Tokyo 出典:Mouser
マーケティング部門として、電子システムは組み込みソリューションそのものに変わってきたため、電子回路ボードの設計も必要となってくる。このため新製品トレーニングも行っている、と同社APACマーケティングおよびビジネス開発担当VPのDaphne Tien氏(図2中央)は語る。
日本でも、マーケティングを強化することで、2015年の日本法人設立以来、2022年には販売金額は800%、顧客数は600%増加した、と本社VP兼日本総責任者の勝田治氏は語る。日本における販売額の内訳は半導体が全体の61%を占め、受動部品13%、コネクタやケーブルが13%、機構部品と電源が11%となっている。
今年10月までの直近の業績は、前年同期比7.9%減の31.7億ドルと落ちたものの、米国0.5%減の14.2億ドル、欧州中東が5%減の10.6億ドルだったが、アジア太平洋が23%減の6.9億ドルと大きく落とした。中でも中国市場の落ち込みは特にひどかった、とBurr-Lonnon氏は言う。中国経済の落ち込みはさまざまなメディアで語られているが、エレクトロニクス製品を作るための部品市場も大きな影響を受けている。
電子部品の中で最も大きな販売額を示す半導体は、10月までの実績でも同8%減の16億ドルにとどまっており、抵抗やコンデンサなどの受動部品の同20%減と比べればマシな方だ。
エレクトロニクス製品の中核となる半導体はITテクノロジーを支える重要な部品だけに、これからも成長するため、これに備えてMouserは部品を揃える倉庫を充実させていく。2024年春の完成を予定している新棟を建設中だ。倉庫に陳列している部品を取り出すロボットのVLM(Vertical Lift Module: 垂直リフトモジュール)(図4)は、すでに既存の倉庫で138基を稼働させているが、新棟には最終的に330基を稼働させる予定である。
テクノロジーの個人的なDIY(Do It Yourself)であった「Makers Movement」の動きは去ったものの、Mouser独自の「Maker Faire Tokyo」を今年も開催した。未来のエンジニアとなる若者と今のエンジニアとの出会いの場となるイベント(図3の右)として、イノベーティブなアイデアの実現をサポートしている。
図4 垂直方向に動くリフトによる部品のピックアップ 出典:Mouser
さらに天井近くでは、マトリクス状の3次元棚において部品を出し入れする搬送ロボットも導入する。現在も既存工場にこのAutoStoreでは119台の搬送ロボットと共に稼働している。これらのロボットを使った自動出荷ラインが現在の倉庫の11ラインから新棟を加え20ラインに増やす予定である。これらの自動化によって、1時間当たりの注文処理能力は、5000件から1万5000件に増えると見ている。