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Qualcomm、デバイスAIでスマホからWindowsパソコンへSnapdragonを拡大

これまでスマートフォン用のプロセッサに特化してきたQualcommが、Windowsパソコン用のプロセッサにも進出する。米ハワイで開かれていたSnapdragon Summit 2023で同社CEOのChristiano Amon氏が明らかにした。今回発表した第2世代Oryon(オライオン) CPUコアは他社のCPUよりも2倍高速、消費電力は30%低いと、シミュレーション性能で自信を見せた。

Snapdragon X Elite / Qualcomm

図1 Qualcommが発表した第2世代のOryon CPUを集積したSnapdragon X Elite 出典:Qualcomm


アプリケーションプロセッサあるいはSoCのSnapdragonは、これまでスマートフォンを中心に累計で30億個出荷されてきた。これからはスマホだけではなく、パソコンやクルマの分野のSoCとしても出荷していく。Amon氏によると最新のSnapdragonは、競合よりも2倍高速を達成しており、中国市場では85%を占めているという。スマートグラスにも使われ、2022年には12%成長したとしている。

Qualcommはなぜパソコンやクルマの分野にも進出するのか。時代はパソコンからモバイル(スマホ)時代に移ってきたはずなのに。いまさらパソコン時代に戻るのだろうか。そうではない。

Qualcommの狙いはAIである。「生成AIのインパクトが極めて大きい」とAmon氏(図2)は述べ、これまでのAIとは異なるAIだという。生成AIは高性能コンピューティングデバイスで動き、今や数百ものユースケースが登場している。「今やどこにでも生成AIはある」と言う。ビジネス上のインパクトが大きいのだ。


Christiano Amon CEO / Qualcomm

図2 Qualcomm CEOのChristiano Amon氏 出典:Qualcomm


生成AIは今のところクラウド利用だが、クラウドAIはデバイスと相互作用し、次は個人用デバイスでも使えるようになると見ている。さらに5GとAIの時代が来るという。ただし、クラウドとデバイスの両方にAIが入るといっても、そのユーザーエクスペリエンスが大きく異なる。AIはコンピューティングプラットフォームならスマホであれ、パソコンであれ、どれにでも実装できるため、インテリジェンス(知能)をデバイス上に集積するようになるという。例えばAIスピーカーであれば、もっと自然に会話できるようになる。

さらにスマホやパソコンはクラウドと相互作用しながら協調するようになる。例えば仮想現実(VR)やAR(拡張現実)のように「ドイツにいながらカリフォルニアの生活を楽しむことができる」、とAmon氏は述べる。しかもコンピュータはユーザーのコンテキスト(文脈)をユーザーエクスペリエンスに含むようになるため、デバイス上で生成AIの可能性を広げられるようになるという。

そのために必要なテクノロジーとしては、効率の良いAIモデルであり、CPUやGPU、AIエンジンなどを集積したチップが欠かせない。これが現在ベストなSoCが第2世代のOryon CPUを集積したSnapdragon X EliteだとAmon氏は強調する。もちろん、バッテリを長持ちさせるために低消費電力化はマストである。例えば、写真などの画像データを拡大してもぼやけないようにするため、画素の補完作業が必要だが、生成AIを使えば低解像度の画像でもわずか0.6秒で超解像度のくっきりした画像を出力できるようになるという。

第2世代のOryon CPUは昨年発表した第1世代と違い、消費電力と性能、マルチコア数などで優れているという。X Eliteは、4nmプロセスで設計されており、Oryonコアを12コア集積している。Amon氏はAppleのM2 Maxプロセッサよりも30%消費電力が低く、シングルスレッド性能でX86プロセッサと比べ70%低い、と新しいプロセッサSnapdragon X Eliteの設計を指揮してきたGerard Williams氏は述べている。Williams氏は元Appleのプロセッサを開発してきたエンジニアで、2019年にNuvia社を創業、21年にQualcommに買収された。基本的にはArmアーキテクチャをベースとしているため、 22年8月にArmがQualcommとNuviaを提訴しており、今も係争中である。

(2023/11/08)
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