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5G通信で人口カバーから国土のカバーへ拡大図るKDDIとSpaceXの提携

KDDIがイーロン・マスク氏率いるSpaceX社と8月30日に提携したのは、6Gをにらんだ戦略のようだ。というのは、NTTドコモと同様、日本中どこにいてもスマートフォンがつながる社会が、6Gの狙いの一つだからだ。KDDIは「空が見えればどこでもつながる」をモットーに掲げ、人口カバーから面積カバーへと移行する。半導体需要がまた膨らむ。

通信サービス業者はこれまで人口カバー率は99.9%など、人がいるところを主眼に基地局を広げ、どこにいてもつながるようにしてきた。このため離島や過疎地区は電話がつながらない場合が出てくる。もちろん衛星を使う手はあるが、まだコストが高い。

民間の衛星を民間のロケットで打ち上げるSpaceX社は衛星を使った通信網Starlinkとも接続できるサービスをKDDIと協働で行ってきたという実績がある。2年前に熱海市街近くの初島にStarlinkで衛星と初島を結ぶサービスを開始した。自動的にローミングして接続できる。


Orbital Rocket Reusability

図1 新型ロケット「スターシップ」は逆噴射で戻ってくる 出典: KDDI会見ビデオ


SpaceXの特長は、衛星を打ち上げるロケットを再利用できるという点だ。これまでロケットを250回以上打ち上げてきたが、その内200回以上、ロケット「ファルコン」を再利用させてきた。ファルコンには衛星を含むロケット部分と、本体を推進させるブースタ部分があり、ブースタ部分を切り離して、ロケット部分を再利用させてきた。全長70mのファルコンの次世代となる全長120mの「スターシップ」ロケットでは、ブースタ部分も再利用する。逆ブーストをかけることで地上に戻ってくるという計画だ。実験では逆ブーストでの着地を成功させている(図1)。

ただし、逆ブーストでの着地の再現性・信頼性を上げるため、3Dシミュレーションを使って何度も評価し実験回数を減らしている。スターシップでは、打ち上げ後にロケットから30基のカード式衛星を宇宙空間に向けて順次、自動排出し、60台のアンテナを宇宙空間に配備するという計画だ。この技術により、衛星コストを下げることができる。

KDDIは、日本国内すべてを隈なく、通信をカバーするという目標を掲げており、6G時代を見据えた戦略へとつなげていく。「空さえ見えれば、自動的にローミングできるようになり、例えば北米に海外出張するときも、北米の通信ネットワークをローミングすることができSIMカードを変えることなく使えるようになる」とKDDI代表取締役社長兼CEOの高橋誠氏は述べている。

通信業者はこれまで人口カバー率を上げてきたが、日本の国土面積のカバー率はまだそこまで達していない。KDDIは人口カバー率では99.9%超だが、国土のカバー率は60%しかないため、日本全国どこに行っても携帯電話がつながるという状況にはなっていなかった。

これまでつながりにくかった野外イベント会場や山岳地帯、離島、海上などともつながるようになる。それだけではなく、災害やパンデミックなどの非日常生活でもつながる。これまで野外イベントでは、通信業者の移動基地局を運び込んでサービスを提供していたが、その必要はなくなる。さらにドローンで自動的に物資を運ぶ際、通信がつながっていない場所を飛ぶ場合は操縦できなくなってしまうが、国土を全てカバーしていればドローンの輸送をさらに加速できるようになる。

このような利用シーンを想定し、基地局のバックボーンとして、いわばStarlinkをKDDIのau基地局に使う。今回、SpaceXとの提携によってスマートフォンは衛星と直接通信できるようになる。2024年内にはサービスを開始するという。基地局だけでなく、ドローンの広がりや日常的になってきた災害に対しても通信を支える半導体需要の拡大は続く。

(2023/09/15)
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