Semiconductor Portal

HOME » セミコンポータルによる分析 » 産業分析

2.5D/3D-ICや先端半導体には3Dシミュレーションが不可欠に

シミュレーション技術はかつてCAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれ、機械や自動車など3次元構造の目的物に適用されることが多かった。電子回路では電子の動き(電流)が目に見えずシミュレーションは部分的にしか使われてこなかった。しかし、3次元ICや先端パッケージなど3次元構造になるにつれシミュレーションは半導体技術と近づいてきた。シミュレーション企業Ansysは、「2023 R2」をリリース、3D-ICなど充実させてきた。

Ansys Steve Pytel VP

図1 Ansys社製品VPのSteve Pytel氏


Ansysは、3次元ICや先端パッケージ、電気自動車など複数の物理解析シミュレータを統合した数値解析ツール「2023 R2」を7月に発表、このほど同社のビジネス戦略を同社製品VPのSteve Pytel氏が語った。結論は、シミュレーションに強い同社も他の企業と同様、ソリューションを提供するビジネスへと変わってきたことを示した。

シミュレーション分野では、3次元CADの普及により、3次元グラフィックスで描いた製品の図の上で熱分布や電流・電圧分布などのシミュレーションによる分布から、問題を可視化することが行われている。熱や流体の流れを表現する方程式は、解析的に解けない偏微分方程式で表されることが多い。このため数値計算で近似する。数値計算は積和演算で表現するためGPUやDSPなど多用することが多い。

しかし計算に時間がかかるため、メッシュの切り方を工夫したり、モデルを簡略化したりして計算を速めることが多かったが、最近では大量の積和演算回路を集積しているGPUの登場やCPUの性能が上がってきたことで計算時間を短縮できるようになっている。それでもまだ時間のかかる演算にはクラウドを使って時間を短縮することも可能になってきた。クラウドではソフトウエアの更新も簡単でユーザーにとっては使いやすい環境といえる。


2023 R2 Highlights - Ansys Technology Strategy Pillars / Ansys

図2 Ansysが力を入れる5つのピラー 出典: Ansys


こういった背景からAnsysは、5つの技術戦略ピラーを設定した。一つは基礎物理学による演算手法である。解法の工夫やメッシュの切り方、形状の最適化や解析アルゴリズム、さらにマルチ物理学など改善、二つ目はHPC(高性能コンピューティング)技術の改良、三つめはAIや機械学習の利用、4本目はクラウドの活用、そして安全、セキュアなデジタル化(DX)の推進である。

半導体開発では3次元の先端パッケージだけではなく、GAA(ゲートオールアラウンド)などの3次元トランジスタレベルでの電流分布や熱分布などを可視化する。もちろんデータの可視化にもクラウドやスパコンなどのコンピュータの活用は必須だ。

「Ansysには80種類以上の製品がある」とPytel氏は語る。これらの内、少なくとも6種類以上にAIや機械学習を使い、製品開発効率を高めているという。AIのアルゴリズムを開発するだけではなく、ユーザーエクスペリエンス(UX)の効率アップも進めている。例えばシミュレーション時間がどのくらいかかるのかをAIで試験を何度も学習させ、その結果から推論してシミュレーション時間を予測する。また、AnsysGPTと呼ぶ対話型AIを提供し始めた。物理学を応用したエンジニアリングの専門知識を収集し、バーチャルアシスタントとして使うサービスだ。シミュレーションの深い知識を問えば答えてくれる。

シミュレーションや対象物には時間のかかりそうな計算には、HPCを利用するが、5つの製品には解法を速めるためGPUを使っているという。

最後のDXでは機能安全のモデルの制作に力を入れており、ウェブベースでのデジタル安全プラットフォームを構築、それをクラウド経由で利用する。自動車産業や工業機器に強い日本では、特に機能安全が市場で求められているとしている。例えばEV(電気自動車)では、バッテリの熱管理の問題に適用できる。このため、デジタル安全マネージャーと呼ぶソフトウエアプラットフォームをウェブ上で使うことで、機能や性能、効率などの向上をカスタマとコラボしていく、とPytel氏は語る。

(2023/09/01)
ご意見・ご感想