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これから進化が深まっていく5G通信システム〜Ericsson Mobility Reportから

日本を含む北東アジアでの5G加入者はますます増えている。2023年には8億件を超え、28年には2倍の16億件に到達しそうだ(図1)。このような予測を示したのはEricsson Mobility Report2023年6月版。このほど日本語に翻訳された。世界全体で2023年は15億件だから、半分以上の加入者が北東アジアに集まっている。北東アジアとは、日本、中国、台湾、韓国、香港のこと。

北東アジア地域のテクノロジー別モバイル契約数 / Ericsson Mobility Report

図1 北東アジアが5Gの普及を推進している 出典: Ericsson Mobility Report


世界全体での5Gの普及の実績と予想を図2に示す。世界では、2023年がLTE(4G)のピークが来るという。北東アジアが5G先進地域といえる。22年の30%が28年には71%に普及すると予測されている。ただ、北東アジアの国の中では日本はやや遅れ気味だという。日本では、周波数帯によって衛星との干渉があったり、MIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナ設置の向きに建物での制約があるからだという。


無線方式ごとのモバイル加入契約数(単位:10億) / Ericsson Mobility Report

図2 全世界での5G加入者は2023年に15億件 出典:Ericsson Mobility Report


5Gの普及は、当初ミッドバンド(サブ6GHz)から始まり、ローバンド(2.5GHz以下)へと広がった。ハイバンドであるミリ波の普及はまだ進んでいない、エリクソン・ジャパンのCTOである鹿島毅氏は言う。北東アジアで5Gが普及していることはスマートフォンによるモバイルデータトラフィックが増加の一途をたどっていることと関係する(図3)。5Gのデータレートはビデオや音楽などのデータ量の多い応用にも対応できるからだ。22年には36EB/月のモバイルデータトラフィックが28年には95EB/月を超えそうである。これはスマホ1台当たりの平均月間使用量が54GB/月に達すると見られ、内90%が5Gだと予想する。


北東アジア地域のモバイルデータトラフィック(EB/月) / Ericsson Mobility Report

図3 モバイルデータトラフィックはずっと増加傾向 出典:Ericsson Mobility Report


スマホというハードウエア機器の出荷台数はもはや飽和しているが、その性能・機能は進化しているため、データ量は伸び続けている。性能が上がれば、ビデオのストリーミングやダウンロードでもストレスがなくなる。

5Gは増加するデータトラフィックに対処するために生まれた技術であるが、FWA(固定ワイヤレスアクセス)が意外に伸びている(図4)。これは、モバイル用途ではなく固定電話ネットワーク向けの通信であり、ラストワンマイルの役割を果たす。


FWA接続数(単位:百万) / Ericsson Mobility Report

図4  FWAの接続数は着実に増加する ここではポータブルWi-Fiルータは含んでいない 出典:Ericsson Mobility Report


日本だと光ファイバ網が家庭まで張り巡らされている地域が増えているが、国土の広い米国や欧州全域では光ファイバ網が十分ではない。このためFWAは光ファイバの基幹網から家庭やオフィスまでのラストワンマイルをつなぐためのネットワークとして普及している。それも4GのLTE時代からFWAが使われるようになっていた。5G通信で米国では28GHz帯の準ミリ波が普及し始めていたが、実はFWAが主な用途だった。

この意味で日本ではFWAは使われないだろうと見ていたところ、NokiaやEricssonのような通信機器メーカーは日本向けにFWA受信機兼ルータを2年ほど前から販売してきた。人口の少ない過疎の村や地域では光ファイバがまだ敷かれていないところが多く、FWAの可能性は高い。都会では引っ越ししてきてすぐにインターネットを使いたいという要求が増えている、と上述の鹿島毅氏は言う。FWA受信機兼ルータは、5G電波を受けた後、室内のパソコンやモバイル機器に向けWi-Fiを発信する。もちろん固定電話や携帯電話ともつなげられる。

5G技術の市場での準備状況 / Ericsson Mobility Report

図5 5Gの規格は今後も進化が進む 出典:Ericsson Mobility Report


スマホ機器はもう飽和しており買い替え需要しかなくなってきたが、スマホで送受信するデータ量は増加の一途をたどっている。またIoTも増えてきており、セルラーネットワークを使うIoTは年率20%程度で増加している。5G通信を使う用途は拡大しており、クルマも含めデータトラフィックの増加と5G利用デバイスの拡大によって、5Gのスペックの進化も止まらない(図5)。

複数の帯域を束ねるキャリアアグリゲーションは今後アップリンクにも使われ、ミリ波のSA(Stand alone)方式がFWAに普及し始める。IoTや機能を絞ったウェアラブルデバイスなどに向けた低データレート・低消費電力のサービスRedCap(Reduced Capability:機能を削減)も始まる。5Gの進化は2030年ごろまで続くともみられている。

(2023/08/08)
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