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onsemi、クルマ事業へのシフトで最新売上額を1年前よりプラス成長

市場ではクルマと産業向け半導体にフォーカスし、製品ではパワーとイメージセンサにフォーカスする。米onsemiの戦略が明確になって以来、同社は半導体不況の中でも、成長し続けている。絶好調だった昨年の第1四半期と比べ売り上げを落とす多くの半導体企業の中で、今年の第1四半期もわずかながらプラス成長を果たした。1年前、日本法人代表取締役社長に就任した林孝浩氏に同社の秘訣を聞いた。

オンセミ 林孝浩代表取締役社長

図1 林孝浩氏、オンセミ代表取締役社長


2023年第1四半期(1Q)における世界半導体メーカーの決算は、軒並みマイナス成長だった。好調といわれるNvidiaでさえ、前年同期比は13%減だった(注1)。これに対してonsemiの業績(売上額)はプラス1%増の19.6億ドルであった。

その要因は、成長著しいクルマへのシフトである。2022年1Qでの車載向け製品は売り上げの37%を占めていたが(参考資料1)、23年1Qには50%へとリフトさせた。産業向けでは昨年の28%から29%へと微増にとどまった。その他を35%から21%へ大きく下げたためである。その他には、5G、クラウド、民生用白物家電やテレビモニター向けなどを含んでおり、5Gとクラウド市場向けは今後も伸ばしていくが、白物家電とモニターはもはや伸ばさない。

onsemiは、Motorolaから個別半導体事業部門をスピンオフさせて誕生したものだが、個別半導体だけでは差別化しにくい。そこでイメージセンサやパワーICなどを強化して他社との差別化を図ってきた。差別化とは、フォーカスするパワーとイメージセンサのインテリジェント化である。2020年にCEOとなったHassane El-Khoury氏は、5年間で車載と産業向けを強化し75%成長という目標を掲げたが、わずか2年でそれを達成した。すなわちonsemiは急速に成長している企業だと言える。

言うまでもないが、米国企業は利益を生まなければ株主から強く非難される。このため売り上げを伸ばしたからといって利益を度外視はしない。ちなみに2023年1Qにおける営業利益率は、GAAPで28.8%、Non-GAAPで32.2%と非常に健全な企業といえる。

成長のエンジンとなる2つの製品群の内、パワー半導体では特にSiCに力を入れる。onsemiは2022年がSiC市場の立ち上がりと見ており、今後2030年までに年平均成長率CAGRは33%で成長し続けると予想する(図2)。


図2 2022年がSiC成長元年 今後CAGR33%でSiCは成長する 出典:onsemi


SiCは、シリコンと違って温度をいくら上げても大気圧で溶液にはならない。液状にならずいきなり気体となる昇華特性を持つため、製造に時間がかかる。物理特性もかなり固く、ダイシング時の切断や研磨など機械的な加工が難しい。しかも化学的には腐食されにくいという特性は、エッチングしにくいという短所にもなりうる。このため製造技術や製造装置はシリコンとは全く違うものが求められる。要はシリコンとは別に生産ラインを作らなければならない。

SiCデバイス完成までの工程でサプライチェーンの安定化を追求すると垂直統合型で揃えることがSiC産業では求められている。このため、onsemiは結晶作りのエキスパートであるGTAT(GT Advanced Technologies)社を買収、SiCの結晶からパッケージに実装した3相モータ向けのインバータにそのまま使えるようなモジュールまで一貫生産できるシステムを構築した。SiC基板の生産量を10倍に、ダイの生産量を12倍、パッケージの生産量を4倍、新製品の開発力を3倍にすることで歩留まりを1.7倍に上げ、10億ドルへの道筋をつけた。

チップの生産量を上げるためにトレンチ幅の微細化などによるチップの小面積化を進め、第1世代から第5世代までのロードマップを描いた(図3)。SiCではウェーハプロセスは重要だが、パワーデバイス特有のパッケージ技術もかなり重要で、いかに熱を早く逃がすかという技術に集中する。これにより、高効率化でEVの走行距離を延ばす、小型化で高速スイッチング、そして堅牢さも追及して信頼性を高める、という顧客ニーズに対応していく。長期的に90億ドルの売上額をめざす。


図3 効率を上げてチップ面積を小型化、収率を上げる 出典:onsemi


車載向けイメージセンサでは現在トップであるが、この分野もさらに伸ばしていく。クルマ用途では、トンネルの出入り口などでの急な明暗でも見えるようにダイナミックレンジを広くする、暗闇でも人をきれいに見えるように低照度性能を上げる、LEDを時分割で点滅させている信号機のフリッカーを見えないようにする、電力効率を上げて消費電力を下げる、そして機能安全やセキュリティの確保など自動車特有の要求性能や機能がある。これらを満足させるイメージセンサの開発を続けている。さらにToF(Time of Flight)センサで検出物との距離も3次元的に検出し物体認識率を高め、産業用コンピュータビジョンの普及に向けていく。

Subaruの緊急自動ブレーキシステム「アイサイト」のカメラシステムにonsemiのイメージセンサが搭載されており、Subaruの「レボーグ」の2020年発売車に最初に載った(参考資料2)。また、onsemiは、最近、ドイツのEV専門のティア1サプライヤであるVitesco Technologiesと10年間で19億ユーロの長期供給契約を交わした。VitescoはonsemiのSiC生産能力を上げるため、2.5億ドルをonsemiの生産設備に投資する。


1. 一般的に季節要因として第1四半期は前年の第4四半期よりも売り上げが落ちるが、今回のNvidiaの第1四半期売上額はむしろ例年の逆で、なんと19%も増えた(参考資料3)。このためNvidiaは絶好調と見なされ、株価が上がり時価総額が1兆ドルを超えるようになった。

参考資料
1. 「センサとパワーのインテリジェント化に成長の活路を再定義したonsemi」、セミコンポータル (2022/06/28)

2. "onsemiconductor and SUBARU redefine leading-edge ADAS capability with new machine vision algorithms and sensing technology", onsemi (2023/06/05)

3. Investor Presentation, Q1 FY24, Nvidia (2023/05/30)


(2023/06/28)

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