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ソフトウエア定義のクルマを明確にしてくれたNVIDIAのCEO

これからのクルマは、ソフトウエア定義のクルマ(Software-defined Vehicle)になると言われているが、SD-Vとは何か、コンピュータやドメインコントローラやゾーンコントローラとは何が違うのか、明確な説明が実はあまりなされてこなかった。NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏は、MediaTekとの提携の中ではっきりと定義した。

MediaTekのRick Tsai副会長とNVIDIAのJensen Huang CEO

図1 Computexで提携を発表したNVIDIA CEOのJensen HuangとMediaTekのRick Tsai副会長


SD-R(ソフトウエア無線)技術から始まったSD-Xという言葉は、もともと共通のハードウエアプラットフォームを作っておき、ソフトウエアを更新することで機能を更新したり新しい機能を追加したりできるようにする技術として使われてきた。最初に使われたSD-Rは、各国の通信(放送)モデム演算器の基本となるハードウエアを共通基盤となるプラットフォーム(半導体IC)として設計しておき、ソフトウエア(例えばフラッシュメモリなどに蓄積)を交換するだけで各国の変復調器(モデム:Modulation +Demodulation)に対応できるようにしたIC技術である。そうすると例えば欧州各国のデジタルラジオ放送をどこに移動しても聴くことができた。

SD-Xはその後、基地局通信用ネットワーク機器にも適用され、共通となる制御プレーンを、半導体ICを駆使したハードウエアで構成し、データプレーンをソフトウエア(アプリ)を交換するだけで様々な地域の方式に対応しようという技術だった。

いずれの場合もコンピュータ(CPUとメモリ)をベースにしたシステムだからこそ、SD-Xを実現できるようになった。クルマを見ると幸いにも実にたくさんのコンピュータ(ECU)が搭載されている。ECUの最も小さなものはマイコンによる制御である。ここのECUには必ずマイコンないしSoCが搭載され小さなコンピュータが数十個〜百個クルマに搭載されている。これらのコンピュータを利用して、ソフトウエアを交換するだけで機能を修正、更新、追加することは簡単にできる。これこそがソフトウエア定義のクルマである。

これまではハードウエアとソフトウエアを一緒のECUに組み込んでいたため、あたかもECU=ハードウエア部品、とみられることが多かった。しかし、マルチコアや仮想化技術が登場すると、数個のECUの機能を一つのCPUにまとめることが可能になり、1台のECU(ドメインと呼ぶ)で数個分のECUを肩代わりさせるドメインコントローラあるいはゾーンコントローラ(場所ごとにまとめる)などと呼ばれる将来のシステムが可能になった。

NVIDIAaのHuang氏は、クルマのハードウエア(車体や車両)は10年間、維持するという前提があるため、(これまでのECUなどのシステムではできなかった)ハードウエアではなくソフトウエアをOTA(Over the Air)などで更新できるから、SD-Vehicleが注目されている、と述べた。すなわちカーコンピュータとOTA技術を組み合わせると、SD-Vが可能になる。

そこでNVIDIAはMediaTekとパートナーシップを結んだ。しかもComputex Taipei 2023の中で発表した。「NVIDIAはコンピュータ技術やAIに強く、しかもクルマ関係のソフトウエアにも強い。例えばAIクラウドでは、Drive Simシミュレーションや、メタバースを実現するOmniverse、AI学習能力などを持ち、AIキャビン(車室内)ではゲームやAIアシスタント、そして車両関係ではDrive OS、さらに多くのこれまでのデータを蓄積している」とHuang氏は述べた。MediaTekは通信によるコネクティビティやコンピューティング技術、マルチメディアが得意だ。特に低消費電力のコネクティビティ(4G・5GなどのセルラーやWi-Fi、Bluetooth)やSoC技術にも強い、とMediaTek副会長のRich Tsai氏は述べている。

クルマ用途では、コネクティビティのMediaTekと、自動運転向けのシステムのNVIDIAが提携することで、OTAを通したSD-Vシステムが可能になる。もちろん、クルマというハードウエアそのものはクルマメーカーの協力が必要になる。どのクルマメーカーがこの2社と組むかについては明らかにしていないが、「両社の提携はグローバル業界を見ている」と述べており、日本のOEMメーカーにも機会は開かれている。

(2023/06/02)
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