セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

AIを使ってみたい企業に向けた新ツールをマクニカが提供

|

「AIを使って業務を効率化したいが、どこから手を付けていいのかわからない」。こういった悩みを解決するAIのソフトウエアプラットフォームを半導体商社のマクニカとファブレス半導体のNvidiaが協力して構築、提供し始めた。NvidiaのAIソフトとハードを搭載したこのツール「AI TRY NOW PROGRAM」をマクニカのエンジニアがサポートする。

半導体商社といってもマクニカはただチップ製品を販売するだけではない。チップの使い方などの技術的なサポートを「売り」としている。NvidiaのGPUチップも同様で、AIに必要なNvidiaのソフトウエアの使い方にも踏み込んでサポートする。半導体以外にもネットワークやサイバーセキュリティ、IoTを含めたトータルソリューションも提供するため、マクニカは半導体メーカーにとって強い味方となる。


図1 エヌビディア代表の大崎真孝氏

図1 エヌビディア代表の大崎真孝氏


「AI TRY NOW PROGRAM」を今回サービス提供するのは、AIをうまく使いこなせない企業が多いからだ。Nvidiaの日本法人代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏(図1)は、「IDCの調査によると、企業の34%しかAIを使っていないが、日本は10%以下ではないだろうか」と見る。実際取材しても、PoC(実証実験:Proof of Concept)までは、やっている企業はあるものの、それを実業務に適用する所が少ない、という声をいたるところで聞く。IDCの調査でも、PoCを終えて実業務に使っているところは世界でも53%しかない(図2)。


パイロットからプロダクションへの移行に伴う課題 より簡単なAIの必要性

図2  AI導入が遅れている問題点 出典: Nvidia、IDC、Gartner


AIビジネスでは、ユーザー企業は自社の業務は熟知しているがAIのことがわからない。AIメーカー側はユーザーの業務のことがわからない。このためAIプロバイダーはユーザーの業務を理解してどこにAIを導入すべきかを決めるためのコンサルティングを伴う。AIチップを販売する場合も同様で、AIチップは簡単には売れない。必ずコンサルティングしてカスタマイズしなければAIチップは機能しない。つまりAIチップは究極のカスタム品であり、汎用性は少ない。

GPUというAIチップだけではなくAI関係のソフトウエアライブラリを多数に揃えているNvidiaは、コンサルティングを伴うビジネスを展開してきた。しかし半導体メーカーだけでは業務効率が悪い。そこで、技術商社のマクニカの力を借りて、AIビジネスを展開してきた。それでもなお、日本ではAIで業務効率を上げる企業がいまだに10%程度にとどまり、AI初心者がNvidiaのGPUをAIで使いこなせるようにするため、今回のツールを提供することになった。

このツールはTRYという名の通り、試してみることに使うため、2週間以内なら原則無料で使える。

今回のプログラムでは、主に二つの応用を試せる。一つは企業向けのAI全般に適用する「Nvidia AI Enterprise」と、もう一つは工場で働く人の有効的な配置を含め工場とそのプロセスを設計するデジタルツイン(メタバース)を構築するツール「Nvidia Omniverse」と「Nvidia Isaac Sim」である。

AI EnterpriseではAIのモデル開発から実用化の推論に必要な検証済みのAIソフトウエアスタックや、学習モデルを提供する。インタラクティブな開発から大規模学習まで直感的に操作できる機械学習向けの開発者ポータルを提供する。GPUに最適化された仮想化プラットフォームを使ってインフラからアプリまで統合管理でき、ダッシュボードで一元管理できる。

メタバースツールOmniverseとシミュレーションツールIsaacを使ったデジタルツインでは、3D-CADツールを使って複数の設計者がリアルタイムでコラボレーションしながら設計を完成させるメタバースの世界を利用する。利用するシーンやアセットを組み合わせてAI学習向けの合成データを生成できる。


「AI TRY NOW PROGRAM」検証環境構成

図3 AIインフラの検証ツールも提供する 出典:マクニカ


さらにユーザー企業内に構築するAIのインフラを検証する場合には(図3)、NvidiaのGPUを搭載したコンピュータDGXやGPUボード、NvidiaのネットワークチップDPUを搭載したネットワーク機器(100〜400GbpsのInfiniBandやEthernet)も提供し仮想化環境を構築する。そのための管理やオーケストレーションソフトウエアVM/Kubernetesと、GPUリソース管理ソフトRun:aiも提供する。

こういったツールを提供することで、日本におけるAI導入による業務の効率化を推進し、社会実装を早めることで経済成長と、イノベーションを生み出す時間を作ることが期待される。半導体企業はますますソリューション提供まで踏み込むことで、半導体利用を拡大していくことになる。

(2023/05/18)

月別アーカイブ