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IoTシステムで小売店舗の売り上げ増を支援するSES-imagotag社

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小売市場に向け、IoTプラットフォームやIoTセンサタグなどソフトウエアとハードウエアをまとめてソリューションとしてIoTシステムを提供するフランス企業SES-imagotag社が日本法人を設立、日本市場へ本格的に参入した。スーパーマーケットや家電量販店、コンビニをはじめ、小売りユーザーの売上増をIoTで支援する。

実はSES-imagotag社は日本とアジア太平洋地区ですでに実績を積んできた。日本ではイオン(AEON)九州店やノジマなど250以上の店舗に導入、台湾でもファミリーマートをはじめ35件、シンガポール115件以上、オーストラリア4件以上の実績がある。今回、満を持して日本法人「エス・イー・エス・イマゴタグ・ジャパン株式会社」を設立した。


図1 SES imagotag社のThierry Gadou CEO(左)とAPAC上級バイスプレジデントのPascal Gerbert-Gaillard氏(右)

図1 SES imagotag社のThierry Gadou CEO(左)とAPAC上級バイスプレジデントのPascal Gerbert-Gaillard氏(右)


同社の最大の特長は、ソフトウエアを中心としながらもハードウエア製品も揃えて、IoTシステムソリューションとして顧客に提供することだ。同社は実店舗のデジタル化を促進すると述べており、インターネットを利用した単なるe-コマースではなく、デジタル技術を使って小売り店舗をもっと合理化、近代化することを目的としている。「無人化を促進するものではなく、商品棚の管理のデジタル化とデータ活用による見える化で売り上げを伸ばすことができる」と同社Président-Directeur Général, Group Chairman &CEOのThierry Gadou氏(図1の左)は述べる。「いわばオンラインと実店舗のハイブリッドモデルである」と続ける。実際、「シンガポールの(百貨店である)Marks & Spencerでは売り上げが15%上がった」とAPAC上級バイスプレジデントのPascal Gerbert-Gaillard氏(図1の右)は実績を強調する。

店舗のデジタル化とは何か。同社はいくつかの事例をあげた。電子棚札(ESL: Electronic Shelf Label)では価格を表示するが(図2)、電子タグのメリットは価格設定を自由に設定できること。例えば賞味期限が迫っていれば20%引き、少し余裕があれば10%引き、などに自動的に変えることができる。また、電子タグとカメラを連動させることで、商品が棚から取り出されたり戻されたりする回数を記録し、商品の補充を最適化できる。ある商品が棚からなくなるとすぐに連絡が入り人間が補充する。カメラからの画像を見てAIはどの商品であるかを判別する。いわゆるコンピュータビジョン技術をここに生かす。


電子棚札ESL: Electronic Shelf Labelのデモ

図2 電子棚札(ESL)のデモ 3段目の左寄り中央にカメラが設置されており、向い側の電子棚を撮影する


SES-imagotagが持つ製品群は、IoTソフトウエアプラットフォームであるVusionと、電子タグ(ESL)、コンピュータビジョンとAI(機械学習)を利用したCaptana、データ分析のmemoryなどがある。Vusionは、IoTデバイスそのものの管理とデータはデータベースとして管理する。VusionにはMicrosoftのAzureのクラウドを利用するVusion CloudとローカルのVusion OSがある。また、IoTセンサデバイスにはイメージセンサだけではなく、温度センサや動きセンサなども搭載しており、温度管理を徹底していることに加え、動きセンサで商品が棚から取り出されることを検出する。

Captanaコンピュータビジョンでは、カメラを棚に設置し向かい側の棚の商品を撮影するが、欧州における個人情報保護規則であるGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)に抵触しないように人の顔だと認識したら、ぼかしを入れたり削除したりしてデータとして取り出せないようにしているという。撮影したデータでは商品だけを認識するようにAIを学習させる。

そのようなIoTセンサからのデータをWi-Fiで集めるAP(アクセスポイント)を置き、クラウド利用やオンプレミス利用に対応する。APには低消費電力にするための独自の通信プロトコルを採用しており、それをCiscoなどのWi-Fiアクセスポイントに組み込んでいる。

これからはBluetoothも使えるようにBluetooth SIG(Special Interest Group)が電子棚札市場向けに新たに通信標準を設定した(参考資料1)。このBluetooth ESLの標準化によって、様々な企業のESLをBluetooth上で使えるようになり、インターオペラビリティやスケーラビリティ、さらには他のスマート小売業界にも拡張できるようになる。SES-imagotag社にはQualcommも株主の一人となっており、QualcommがBluetooth SIGを動かしたようだ。

その直後に、QualcommはSES-imagotagと提携し、標準化されたBluetooth ESLを使った電子棚札を共同で開発していく(参考資料2)。従来のWi-Fiプロトコルだと、ESL各社とも独自プロトコルを作ってESLを開発してきたため、あまり普及しなかった。Bluetooth LEよりももっと消費電力の低い通信規格Bluetooth LE 5.4をベースに開発されるとみられる。標準化されることで、インターオペラビリティが確立され、小売店舗での採用が今後さらに進むと期待される。


5年間の驚異的な市場開発 / SES-imagotag

図3 急成長するIoTシステム利用の電子棚札市場 出典:SES-imagotag


SES-imagotag社は現在従業員750名、世界19地域に拠点を持ち62カ国、350以上の小売業者に販売している。3万5000店舗にIoTシステムが設置され、売り上げは6億2000万ユーロとなっている。2018年に顧客数が全世界で200だったが、2022年には350以上に急成長しており(図3)、世界ではIoTによる電子棚札市場が急増していることを示している。世界の小売業者トップ250社のうち50社が同社の製品を使っているという。今年の売り上げは8億ユーロに達する見込みだ。

日本法人はまだ5名しか社員はいないが、今後日本及びアジア太平洋地区を念頭に、増強していく。プリセールスエンジニア、マーケティング、パートナーマネージャー、AIスペシャリスト、セールスアカウントマネージャーなどを採用する。

参考資料
1. "Bluetooth SIG Introduces Wireless Standard for Electronic Shelf Label Market", Bluetooth Resources (2023/02/07)

2. "Qualcomm and SES-imagotag Collaborate on Standards-based Electronic Shelf Labels (ESLs) to Enhance Retail Experiences", Qualcomm Press Note (2023/02/09)

(2022/04/07)

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