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キオクシア、用途拡大に向け、製品拡大と投資の両面で活発に

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キオクシアが車載、データセンター向けのNANDフラッシュと市場拡大に向け動き出した。JEDEC仕様のUFS 3.1に準拠した車載向けのNANDフラッシュをサンプル出荷、データセンター向けにはPCIe 5.0に準拠するインターフェイスを設けたSSDと、ミッションクリティカルなクラウドサーバやストレージシステム向けSSDもサンプル出荷を始めた。モバイル用途以外の応用を積極的に広げている。

図1 キオクシアの北上工場(正式名はキオクシア岩手) 出典:キオクシア

図1 キオクシアの北上工場(正式名はキオクシア岩手) 出典:キオクシア


メモリ事業といってもNANDフラッシュ1本のキオクシアでは、大量生産のモバイル用途の一大顧客であった華為科技が抜けてしまった。幸いAppleはまだ大手の顧客ではあるが、さらに広げていかなければ、逃げられた時のリスクは大きい。自動車産業ではECU(電子制御ユニット)の増加だけではなく、自動運転やコネクテッドカーなどACES(Autonomy, Connectivity, Electricity, and Sharing: CASEともいう)向けなどメモリ保存の用途が拡大している。クルマがコンピュータ化すればするほどストレージ需要も増える。

クルマ市場だけではない。クラウド市場はまだまだ成長途上にあり、データセンターやストレージシステムでの要求も強い。ただし、SSDは高速用途がメインである。コールドストレージのようにデータ保存が主な用途だとHDDやデジタルテープがまだまだ根強い。

PCIe 5.0のように高速のシリアルインターフェイスや、高信頼性のストレージシステムでの誤り訂正の高速化や速さを要求される用途ではNANDフラッシュの要求は強い。もっとも出荷数量の多い用途は、スマートフォンやパソコンではあるが、大量すぎて契約を打ち切られるリスクも大きい。やはり、用途を拡大し、さまざまな収入源を求める戦略が常套手段であろう。コールドストレージとしては、東芝からHDD事業を買収するという手もある。Western Digitalのように高速と低速、大容量と中小容量など補完的にストレージをカバーするという訳だ。HDDとSSDやNANDフラッシュとの容量当たりの単価の差は未だ歴然と大きいからだ。また、HDDの高速化にNANDフラッシュをキャッシュ的に使う用途もある。

用途の拡大需要拡大に向け、キオクシアは北上工場の敷地にこの4月から第2製造棟(K2棟)の建設を開始する。竣工は2023年を予定している。ニュースリリースには総投資額について述べられていないが、Bloombergをはじめ外国メディアによれば1兆円の投資になるとしている。Western Digitalと投資額を折半するため、キオクシアの投資総額は半額になるだけではなく、政府の助成金交付の対象にもなっている。

3月1日に施行された「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(特定半導体生産施設整備等関係)」(参考資料1)によると、申請・認定の計画において対象となるメモリ半導体として160層以上のNANDフラッシュの事業者も含まれている。つまりキオクシアはこの助成金(返還不要)の対象になっている。この1兆円もの投資額にも助成金が適用されることは間違いないだろう。

WDはSamsungと提携

ただし、気になる弱点は同じストレージデバイスであるSSDとHDDがそれぞれ別々に生産している点だ。キオクシアはSSDを扱い、HDDは東芝D&Sが扱っている。3月30日、キオクシアの生産パートナーであるWestern Digitalは、NANDフラッシュメモリのライバルSamsungと、新しいデータ管理技術であるZoned Storage方式に関して提携した。Zoned Storage方式は、WDが提案している技術で、HDDだと東芝D&Sが持っているSMR(Shingled Magnetic Recording)方式のHDDと、SSDではZNS(Zoned Namespaces)方式を利用して、無駄なデータを除去して容量を上げ、レイテンシを短縮するというメリットがある。

WDはキオクシアではなく、なぜSamsungを選んだのかはわからないが、データ管理の新しい方法はデータセンターなど大容量ストレージシステムにおいて今後標準化に向けWDはSamsungと一緒に進めていく。キオクシアがWDと同様、HDDも持っていれば、WDと共に、Zoned Storage方式の普及とデータセンターでの広い採用がもっと見込める可能性が出てくるだろう。

参考資料
1. 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(特定半導体生産施設整備等関係)」、経済産業省 (2022/03/01)

(2022/03/31)

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