「独自チップは脱炭素を実行する上で不可欠」Nokia、新プロセッサ開発の理由
かつて世界の携帯電話を支配していたNokiaが通信インフラに力を入れているが、このほど新型ネットワークプロセッサチップ「FP 5」を開発(図1)、通信基地局の消費電力を下げると共にセキュリティも強化した。汎用のネットワークプロセッサチップでは、性能も消費電力も満たされないからだ。
図1 Nokiaが独自開発したネットワークプロセッサFP 5 出典:Nokia
Nokiaは基地局内で使うためのネットワークプロセッサをこれまでも自社開発してきた(図2)。5G通信時代には、これまでの携帯電話だけではなく、IoTのデータも同じ基地局で扱うため、ネットワークスライシング(高速から低速まで様々なデータレートを処理する区分け)をはじめ新しい技術が登場する。このためネットワークプロセッサも改良が求められる。そこで、ネットワークプロセッサを進化させてきた。
図2 これまでに自主開発してきた独自ネットワークプロセッサFPシリーズ 出典:Nokiaのスライドから
このほど発表したネットワークプロセッサFP 5は1チップ構成にしたが、2017年に発表したFP 4チップではCPU部分が3チップ構成のチップセットになっていた。さらに、プロセッサとのやり取りが必要なDRAMメモリにはHBMを4個採用、シリコンインターポーザを通してCPUとHBMを1パッケージに実装した。
この結果、従来のFP 4プロセッサと比べ、性能は3倍に上げながら消費電力は1/4に削減した。性能はCPUコアを大量に並べて並列処理するメニーコア方式とパイプライン動作による分散処理で向上させた。消費電力もメニーコア方式でクロック周波数を上げずに済んだ。この結果、冷却方法は空冷で済ませられた。
自主開発だとセキュリティのレベルを上げるためにも有効だ。汎用プロセッサだとセキュリティ用のマイコンやセキュアなメモリを用意し、暗号化や認証の仕組みをプリント基板上に形成しなければならないが、独自チップだとセキュリティの仕組みも1チップに集積できる。FP 5では、従来よりも暗号化を強化した。従来は、ソフトウエアプロトコルのアドレス部分だけを暗号化していたが、今回はデータのビットパターンも暗号化した。
Nokiaはもちろん半導体製造ラインを持っていない。ファブレスとしてチップを開発したのは、汎用の半導体ネットワークプロセッサチップでは性能や機能、消費電力が満足いかないからだ。加えて、Nokiaが自主開発する理由の一つが脱炭素だ。半導体はシステムの低消費電力を実現できるデバイスだ。自社開発でNokiaが思い描く半導体を自分で設計すれば、余計な命令セットや不必要なソフトウエアを削減できるため、消費電力は下がる。しかも、ハードウエアだけのASICではなく、CPUにソフトウエアをプログラムするプロセッサであるため、プログラマビリティも確保できる。
Nokiaは全社的に脱炭素を目指している。将来も成長したいと考えると脱炭素は避けて通れない。ビデオストリーミングや4K/8Kテレビのように消費電力が上がる方向にある現在は、2030年に地球全体を1.5°C上昇させるという、気候変動に関する政府間パネルIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)レポートに準拠して、企業として積極的に脱炭素を進めようとしている。
そこで、通信端末と基地局の消費電力の内訳を調べたところ(図3)、無線ネットワーク系が全体の11%、固定ネットワーク系が13%、データセンター(コア基地局)29%であり、残りの47%がユーザー端末であった。つまり、データセンター系の消費電力を減らすことが急務になっている。
図3 通信技術の消費電力の内訳 出典:Nokiaのスライドから
そこで、コア基地局の消費電力を減らすための方策が、1)ハードウエアの先端化、2)自社シリコン、3)ソフトウエアの先端化、4)AI/機械学習による最適化、5)その他排熱の再利用など、となっている。ここではNokiaのユーザーである通信オペレータのための消費電力の低減技術を表している。これはユーザーに訴求しやすい。これから5Gの利用と基地局の数は増えていく。それに備えた戦略となっている。この考え方は、半導体メーカーや製造装置メーカーにも通用するだろう。