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ISSMでヘテロ半導体技術の方向を示唆した世界の論客Nicky Lu氏

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これからの半導体技術は、シリコンLSIと非シリコン材料やデバイスを集積するヘテロ集積化技術に向かい、エッジやエンドポイントのようなマイクロシステムが自分で賢くする仕組みを想像することになるかもしれない。Semicon Japan2020と同じ時期に開催されたISSM(International Symposium on Semiconductor Manufacturing)2020の基調講演で、台湾EtronのCEOで、世界半導体業界の論客でもあるNicky Lu氏は述べた。

図1 Etron CEOのNicky Lu氏

図1 Etron CEOのNicky Lu氏


世界の半導体業界のオピニオンリーダーの一人であるNicky Lu氏は、シリコンを中心としながらも非シリコン半導体も集積しAIも搭載する半導体ヘテロ技術がこれからのマイクロシステムのカギとなることを示唆した。彼が示唆するものは、決してオーバーではなく夢物語でもない。今、STEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics:科学・技術・モノづくり・芸術・数学)を駆使したアプリケーション革命が起きているからだという認識に基づく。

確かに、AIやIoT、5Gなどを駆使してデジタルトランスフォーメーションが始まった。半導体を使うアプリケーションは民生や産業から社会用へと広がっている。半導体チップへの要求は、小型・高集積であるという方向はこれまでと全く変わらない。部屋の中でしか使えない大きな装置が手のひらに乗るほど小型になると、産業的なインパクトは巨大だからである。かつてのコンピュータは今、スマートフォンになった。また、医療機器では、病院の部屋に置いていた超音波診断装置は、スマホで代用できるようになりつつある。妊婦さんがおなかの中にいる赤ちゃんを自宅で、自分で見ることができるようになる。この動きはこれからも進むことは間違いない。

ただ、これまではムーアの法則と呼ばれる2次元モノリシックにシリコン上にトランジスタを集積する技術で進んできた。しかし、原子のレベルの大きさにまで微細化が進んでくるとさすがに限界に近づく。これまでのMOSFETの動作原理が崩れてしまうからだ。このため新しい材料や化合物半導体などシリコンではないヘテロな材料でデバイスを作ることで新しい機能を集積できる。同じシリコンでも、NANDフラッシュやFinFETのように3次元化で高集積化を続ける動きもある。

一方、クラウドのような巨大なシステムは、エッジやエンドポイント端末にも賢さを導入し始めている。この動きは、小さなシステムを中央からの命令で動くものではなく自律的に動く賢い(Smart)システムにしようというもの。この賢さにはもちろんAIを導入することになる。そうするとシリコンを中心としながらも非シリコンを集積する半導体技術とAIを搭載してエッジを賢く制御するエッジシステムができるようになる。

シリコンとシリコン以外の半導体を集積するヘテロ集積化技術は、3次元ICのようにモノリシックでも行けるが、パッケージング技術が高い価値を持つようになる。半導体技術は、ハードウエアだけではなくソフトウエアも集積できるようになったシリコン2.0からパッケージ技術でヘテロな材料やデバイスを集積するシリコン3.0、さらにその先に向けヘテロな技術の集積化技術をシリコン4.0とLu氏は名付けた(図2)。


図2 Nicky Lu氏が提案するシリコン4.0への道 出典:Nicky Lu氏の論文(参考資料1)

図2 Nicky Lu氏が提案するシリコン4.0への道 出典:Nicky Lu氏の論文(参考資料1)


シリコン4.0では、半導体にAIを組み込み、自律的にシステムを制御できるようになる。これがLu氏の示唆する自律化インテリジェントなエッジシステム(Self-Smart Microsystem)である。こうなると賢いデバイスやツールなどのマイクロシステムはいろいろな場所やオンラインで登場し、インテリジェンスは社会に拡散することになる。Lu氏はこの状態をPervasive Intelligence(PI)と名付けた。社会のシステムに視点を置けば、半導体テクノロジーの進化はまだ終わりが見えない。

参考資料
1. Lu, Nicky, "A New Smart-MicroSystems Age Enable by Heterogeneous Integration of Silicon-Centric and AI Technologies - My Personal View," 2020 International Symposium on Semiconductor Manufacturing, December 15, 2020.

(2020/12/18)

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