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東芝、システムLSIから撤退、早期退職募集へ

東芝は、システムLSI分野から撤退する、と発表した(参考資料1)。先端のシステムLSIの新規開発から撤退し、既存製品のサポートだけは続けていく。昨年、車載デジタルおよび既存顧客サポートを除くロジックLSIからの撤退を行ってきたが、今回はシステムLSIから全面撤退する。

昨年5月の決算説明会で、東芝の経営陣は、システムLSI事業のリストラはこれで終わり、と述べていた(参考資料2)。しかし、システムLSIに対する経営陣の無理解から不安を感じていたが、その不安は的中した。

システムLSIとは何か、東芝のニュースリリースには何も書かれていない。それも東芝のニュースリリースでは、システムLSIとロジックLSI、デジタルLSIという三つの言葉が出てきており、どれもこれもわかりにくい。少なくともロジックLSIは論理ゲートだけで構成するASICのようなICだろうと想像するが、デジタルLSIにはロジックLSIとメモリLSIがある。システムLSIの区別がよくわからない。

少なくともシステムLSIは、システム、すなわちハードウエアとソフトウエアからなりCPUとメモリを内蔵する包括的なLSIと定義すると、それ以外のデジタル回路はデジタルLSIになる。システムLSIはSoC(system on chip)とも言い、ソフトウエアも含む。東芝が持つ画像処理プロセッサ「Visconti」はシステムLSIである。ディープラーニングによって画像認識機能も備えている製品シリーズもある。クルマに搭載すれば人とクルマや自転車を見分けることができ、顔認証システムに使えばどこにも触れずに入退出ゲートを制御することも使える。これからのAI機能を強化できる。

システムLSIは、主にソフトウエアと一部ハードウエアで差別化を図るチップであり、将来性は極めて高い。しかし、東芝経営陣は、システムLSIを捨て、ディスクリートとアナログとマイコン、という差別化しにくい半導体を寄せ集めることを決めた。ある意味、残す半導体は、汎用的なチップのように見える。むしろシステムLSIはメモリとの親和性が良い。キオクシアのメモリコントローラをはじめ、SSDコントローラ、ストレージの階層構成に適したシステムコントローラなどを経営陣が本当に理解していたのだろうか。

システムLSIを捨てる理由として、「アナログICとマイコンについては、ディスクリート半導体とのシナジーが高く、かつ今後も市場の拡大が期待されるモーター制御用製品に注力する」と述べている。しかし、この分野は競争が激しい。他のメーカーとの差別化をどうするのであろうか。国内に来ている海外企業では、Infineon TechnologiesやON Semiconductor、Texas Instruments、Analog Devicesなど競合がひしめいている。国内ではルネサスエレクトロニクスやローム、富士電機などディスクリートのパワー半導体に強い企業が相手となる。どうやって将来を開いていくのか見えない。

今回のシステムLSIの撤退に対し、人員整理も行う。昨年5月に行った早期退職制度を今回も行う。東芝の半導体部門である東芝デバイス&ストレージ社の「半導体事業部においてシステムデバイス事業統括部・スタッフ部門・営業部門に在籍する者、共通スタッフ、研究開発部門の一部、および一部子会社に在籍する者を対象に人員再配置および再就職支援を含む早期退職優遇制度を実施する」と述べられている。早期退職制度実施に発生する費用は118億円という。

結局、半導体を理解していない経営者が判断したわけで、東芝本体はどのようにして成長していくのか、いつまでたっても見えない。

参考資料
1. 当社システムLSI事業の構造改革の実施について 東芝ニュースリリース (2020/09/29)
2. 東芝の半導体、350名をリストラ、システムLSIで何が重要か (2019/05/14)

(2020/09/30)
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