Maxim買収で、DX向け半導体チップのポートフォリオを充実させるADI
半導体産業の再編が盛り上がってきそうだ。アナログ半導体で世界第2位のAnalog Devices(ADI)がアナログのMaxim Integratedを買収すると発表した。両社の合併により単純計算で82億ドルの売り上げ規模になると共に、企業価値は680億ドル(7兆円強)になる。共に営業利益率が30%を超える超優良企業。
図1 弱みを買収で強くして成長するAnalog Devices 出典:Analog Devices
今回の買収は、両社の株式交換により合併する。ADI1株に対して、Maximは0.63株として扱う。この結果、ADIの株主は新会社の株式の69%、同様にMaximの株主は31%を保有することになる。合併により売り上げは82億ドル(図1)、フリーキャッシュフロー27億ドルという企業になる。
ADI、Maximともアナログ半導体分野の中堅企業であるが、重複する製品は少なく、むしろ互いに相乗効果を生む構造になっている。ADIは、中規模ないし大電力のパワーマネジメントに強いLinear Technology を2017年に買収しており、今回は中小規模電力のパワーマネジメントと信号処理系、ASSPに強いMaximを手に入れることで製品のポートフォリオを広げ、相乗効果を期待する。ADIはデータコンバータに強く、パワーマネジメントは元々強くなかったが、LinearとMaximの買収によってこれを強化できる。扱う電力はnWからkWまでという標語も充実する。
ADIは2014年にもRFに強いHittite Microwaveを買収しており、これから本格化する5Gに対しても、アナログ高周波フロントエンドRFからデジタルビットまでを出力できる製品ポートフォリオを揃えている。それも単なるマイクロ波ではない。30GHz以上のミリ波にも対応できるため、第2世代の5G技術もすでに持っている。
ADIは元々MEMSの加速度センサでエアバッグ検出技術からカーエレクトロニクスにも参入しており、これからの自動運転、コネクテッドカー、工業用IoTなどもリードする製品を持っているため、強さをますます強くする戦略を採っている。
アナログを強化しているということは、シグナルチェーンを考えると、センサからアナログフロントエンド、A-Dコンバータ、センサフュージョン、組み込みコンピューティングシステム(Blackfinなど)、DAコンバータ、さらに送受信回路、全体のICチップを動かすパワーマネジメント、とデジタルトランスフォーメーション(DX)に使う半導体ICチップをかなり揃えている。制御マイコンが欲しければArm Cortex-Mシリーズを集積したMaximチップで制御すればよいし、演算を強くしたければ、NvidiaのGPUやIntelのXeonプロセッサを加えれば済む。すなわちDX用の半導体チップをいつでもワンストップショッピングで提供できることになる。ADIはセンサからクラウドまで、という標語も掲げている。
アナログ半導体トップのTexas Instrumentsとは売上規模でまだ開きがあるとしても、将来のIoT、5G、自律化をベースにした将来のDXには十分な製品ポートフォリオといえる。MAC演算とメモリを集積するAIチップは競争が激しいため、無理に参入するまでもない。デジタルと違ってアナログ回路はノウハウの塊だからこそ、誰でも簡単に参入できるわけではないからだ。ADIは、TIの汎用アナログと違い、高性能アナログをうたっており、その価値を社員が共有している。簡単にはチップを値下げしないが、顧客にとってトータルコストは安くなるというメリットを享受できるため、どちらもウィン-ウィンの関係を構築できる。