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特集コロナ戦争(11):2020年半導体市場は成長と縮小のせめぎ合い

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セミコンポータル主催のSPI Free Webinar「新型コロナウイルスに対して半導体企業は何ができるか Part3」(参考資料1)では、市場調査会社Informaの技術調査部門Omdiaの南川明氏が、20年第1四半期(Q1)における半導体企業の業績から、後半にかけての今後の見通しを述べた。

図1 セミコンポータルが開催した会員限定Free Webinar「新型コロナウイルスに対して、半導体企業は何ができるか Part3」
図1 SPI Free Webinar「新型コロナウイルスに対して半導体企業は何ができるか Part3」

20年Q1は、テレワーク需要からノートパソコンやタブレット、データセンター、光ファイバ網、5Gインフラ、有機ELテレビは好調な反面、スマホやクルマ産業機器、白物家電は不調。好調なのは、3月にサプライチェーン寸断による部品調達が心配され、多めに発注したことによるという。データセンター投資はしばらく続くとしている。ただし半導体では3月末にファウンドリにキャンセルが出始めたため、Q2ではデータセンター市場以外は減少すると見ている。

半導体製造装置市場は、20年の当初は3%成長と見ていたが、今は2%減に下方修正した。スマホ需要が低迷していることが大きく、データセンター需要は伸びるが、相殺して2%減という見方になった。NANDフラッシュはスマホ需要の低迷でSamsungの中国西安工場への投資は削減されており、データセンター向けには強い需要になっている。

図2 低稼働率の工場が3カ月休止すると20年は6.1%減 出典:Omdia
図2 低稼働率の工場が3カ月休止すると20年は6.1%減 出典:Omdia

新型コロナの影響は、生産工場の稼働率から計算しており、2019年における世界の電子機器の生産状況から稼働率の低い工場は世界で24.3%ある。この数字を元に、3カ月間工場が止まるとすると、1年間における成長率は、24.3%×3/12=6.1%減少すると予測した(図2)。6カ月間続くと、12.2%減少することになる。ただし、あくまでも計算上なので、稼働率の高い75.7%の工場が20年も昨年同様の稼働率を保てるかどうか保証はない。また、低稼働率の24.3%の工場において稼働率がゼロになると計算しているが、この仮定も正しいかどうかは明確ではない。この数字はあくまでも目安であり、独り歩きしないように注意する必要はある。

上記の仮定の下で、Omdiaは半導体の成長率を3%前後とみており、その中でもファウンドリ市場は7.8%成長と見ている(図3)。中でもTSMCやUMCは2桁成長と見られている。共に20年Q1の業績は、それぞれ45%、30%成長と2桁成長しており、南川氏はそれほど大きく崩れないと見ている。

図3 ファウンドリは順調に成長しそう 出典:Omdia
図3 ファウンドリは順調に成長しそう 出典:Omdia

この背景にあるのは、例えば在宅ワークや外出禁止などで通信量が日本国内で大きくなり、この1カ月で19%程度増加したという。世界的にも通信量は大きく増えており、テレビ会議ソフトであるMicrosoft Teamsで実施された会議時間は3月16日時点で9億分(1500万時間)だったのが、3月31日には3倍の27億分(4500万時間)に跳ね上がった。ビデオチャットの時間も在宅勤務開始後には2倍に増えている。通信オペレータは通信容量を増やすため基地局の増設に動き、病院のように急激に通信量が増えるような場所は通信中継車で補強している。

南川氏は製品別の見込みについても明らかにしており、個別トランジスタのパワーデバイスは、20年下期には稼働率が90%に回復し、ロジックは稼働率が90%を若干切っている。アナログも90%を割っているが過去のリセッション時よりは高い。メモリは90%後半の高い稼働率を維持しており、マイクロ(MPUやMCU)は20年後半に稼働率が高まると見ている。ファウンドリは3月末に10〜15%程度のキャンセルが出たとしているが、心配するほどではないとしている。半導体製造設備は、20年は5%減と見ている。

総じてマクロ経済は減速に動くものの、在宅需要でクラウド需要が高まり通信量も増えることから大きく減少することはなく、せめぎあいが続くだろうと南川氏は見ている。今後はエッジデータセンターが伸びると見ている。これは、携帯端末から直接送受信するエッジ基地局を小さなデータセンターにしようという動きである。目的はレイテンシをできる限り短くすることだ。

5Gではレイテンシは、スマホなどの携帯端末とエッジ基地局との間のやり取りの遅延を指している。クラウド経由でデータ処理してスマホに戻すまでの遅延時間ではない。このため、工場内での産業機器や高速で走行するクルマに対しては基地局とのやり取りでは間に合わないシーンが想定されていた。エッジ基地局とのやり取りの遅延が短ければリアルタイム処理ができるため、クルマとのデータ処理の可能性は現実に近づく。

参考資料
1. 特集コロナ戦争:ウェビナー動画配信 (2020/05/15)

(2020/05/19)

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