InfineonのCypress買収が確定、間もなく完了へ
ドイツInfineon Technologiesが米国Cypress Semiconductorに買収提案をしていたが、各国当局による最終承認を得た。これで正式に買収が可能になった。昨年6月に総額90億ユーロで買収することで両社は合意しており、各国当局の認可を待っていた。最終の中国が許諾したことで買収が確定した。
図1 Infineon Technologies CEOのReinhard Ploss氏と日本法人代表取締役社長の川崎郁也氏
Infineonは、自動車と産業用途に強く、さらにセキュリティ分野でも存在感を見せている。一方、Cypressはプログラム可能なアナログ回路搭載のマイコンpSoCに加え、以前買収したSpansionの持つクルマ用の製品ポートフォリオも備えている。互いに重なる製品をほとんど持たないため、買収後には自動車エレクトロニクスで強力な企業となる。この結果、部品の供給会社から、システムソリューションを提案できる会社を目指す。
Infineonは、パワー半導体ではSiCやGaNという新材料デバイスも備え、得意の低消費電力のパワーMOSFETやIGBT、さらにはゲートドライバ、パワーICなどパワーエレクトロニクスが充実している。クルマの制御に加え、産業用のモータ制御技術も持ち、さらにセキュアマイコンにも強い。クラウド環境をソフトウエアだけでなくセキュアマイコンというハードウエアでも守るという強みも持つ。もちろん、これからのローカル5Gで工場内を守る場合でもセキュアマイコンは有力であり、さらにMEMSセンサも各種持っており、クルマ用だけではなく産業機器、最近ではAIスピーカー用の高感度MEMSマイクでも有利な立場にある。
一方、Cypressが買収して手に入れたSpansionは元々、富士通とAMDとの合弁で出発したNORフラッシュの会社だが、のちに富士通が持つマイコンとアナログの部門も買収しており、この部門が自動車に強い。しかもInfineonが手掛けていないダッシュボードのグラフィックス向けマイコンを持つ。通常、グラフィックスといえば高価、というイメージだが、Spansionはマイコンという安価なチップにグラフィックス回路を集積しており、価格と性能を要求するクルマ仕様にピッタリ合う。
クルマ市場では、これまでのカーナビに代わる総合コンピュータ(コックピットともいわれる)が求められており、しかも安価で、という注文が付く。高度な演算中心のCPUだと他社にもあるが、制御と演算のほどよい塩梅のマイコンであるため、クルマのダッシュボードのディスプレイ制御に最適となり、Infineonにとって相互補完できる製品となる。
例えば、IoTの世界では、CypressのpSoCマイコンでWi-Fiコネクティビティを制御したうえで、ローカル5Gには欠かせないInfineonのセキュアマイコンOPTIGAを組み合わせると、産業用IIoTのソリューションは、ソフトだけではなくハードでも守られるというセキュアな利用が可能になる。まさにベストマッチングとなる。
Infineonは買収後の市場として、2018年から2023年まで家電品のインバータ化市場がCAGR(年平均成長率)19%、コードレス工具市場が同9%、サーボモータドライブ市場が同9%、民生のスマートホーム市場が同31%と、同社や複数の調査会社の見積もりから期待している。
製品だけではない。クルマの顧客に関してもInfineonは欧州市場に強く、Cypressは米国と日本市場に強い。つまり顧客が広がる可能性がある。顧客の動きを見ながら、ハードウエアの開発だけではなく、ソフトウエアでのフレキシビリティを持たせるかどうかの判断を含め、両社の持つパートナーとのエコシステムも合わせることでソリューションビジネスにますます近づくことができる。顧客から見ると、製品ポートフォリオが広がり、ソリューションを提案してもらえるため、ワンストップショッピングが可能で、リファレンスデザインも提供してもらえる、というメリットがある。
そして、何よりも買収される側のCypress内では、昨年から買収を望む声が強く、社員の期待も大きい。これほど好条件の揃った買収はめったにない。今後の成長が期待できそうだ。ただし、懸念は新型コロナウイルスの蔓延による、両社のコミュニケーションが足りなくなるのではないか、という点だ。M&Aで最も必要なことは両社のコミュニケーションだからである。