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フレキシブルエレクトロニクス+CMOS LSIでウェアラブルが実用期に

フレキシブルエレクトロニクスあるいはプリンテッドエレクトロニクスが、機械的に曲げられるといった柔軟な特性だけではなく、伸び縮みも可能で、ヘルスケアやメディカル応用に向けて現実味を帯びてきた。電子的に機能するトランジスタにはウェーハを薄く削ったシリコンCMOS LSIを使うことで、シリコンとのハイブリッドのエレクトロニクスと位置付けられるようになったからだ。

図1 衣服に太陽電池を組み込んだソーラーファッション 出典:Holst Centre

図1 衣服に太陽電池を組み込んだソーラーファッション 出典:Holst Centre


トランジスタまでも有機材料で作ろうとしてきたフレキシブルエレクトロニクスは、もはや「Holy Grail(聖杯)」と呼ばれ、実用化不可能の代名詞にまでなっていた。MOSトランジスタを試作してもシリコンCMOSの300〜400cm2/Vsに対して、20年間でわずか1cm2/Vsに達するかしないかというレベルにしか到達できなかった。トランジスタ部分はシリコンのLSIでよいとなると、がぜん現実味が出てくる。これがフレキシブルハイブリッドエレクトロニクス(FHE)である。

フレキシブルエレクトロニクスの先駆者であるベルギーのIMECやオランダのTNOとHolst Centreなどは、FHEへと舵を完全に切った。医療向けのパッチや、衣服そのものにウェアラブル基板を張り付けるような応用が見えてきたことがFHEへの転換である。衣服に縫い付けたり接着させたりすると、今度は伸縮性(図2)やウォッシャブル(洗濯できるか)が求められる。これはどうやらクリヤできそうだ。しかも、流行性のある衣服の寿命を考えれば、信頼性はそれほど長くなくてもよい。


図2 伸縮性のある衣服に応用 ウォッシャブル性能が求められる

図2 伸縮性のある衣服に応用 ウォッシャブル性能が求められる


オランダの研究所の一つ、Holst Centreでは、スマートクロージング(Smart clothing)に力を入れている。これまでは、衣服の中や表面にセンサやLED、太陽電池などのデバイスをチップと共に埋め込み、文字通りウェアラブルな衣服で身体測定していた。特にスポーツを行うアスリートの心拍数や呼吸数、汗の量などを測定し、データを取り込み最適な運動量などを測定する目的だった。

ところが今回示した衣服では、ファッション性や見栄えを重視したり、あるいは折り曲げられることから折り紙のように何度も畳み込んだりするような構造も可能とする提案を行っている。「スマートクロージングは、ファッション性とエレクトロニクスのつなぎ役を担っている」、と同研究センターのウェアラブルテクノロジーのプログラムマネージャーであるPauline Van Dongen氏(図3)は述べている。


図3 Holst Centre Wearable Technology担当Program ManagerのPauline Van Dongen氏

図3 Holst Centre Wearable Technology担当Program ManagerのPauline Van Dongen氏
Forbes誌による「2018年欧州テクノロジー分野のトップ50人の女性」に選ばれている


これら衣服に装着するプリンテッドエレクトロニクスは、フレキシブル基板の上に配線層やアクティブ層、キャップ層などラミネート状のフィルムで構成している(図4)。これらのフィルムは伸縮できるようになっている。こういったフィルムのプロセスは大量生産向きにロール-ツー-ロール(R2R)方式で形成できる。


Building stacks of micro-structured layers

図4 プリンテッドエレクトロニクス部分はデバイス層、配線層などをラミネートする 出典:Holst Centre


基本的なプロセスとして、配線層は一般的な銀ペーストを用いたプリント印刷で形成し、半導体チップやチップ部品などの部品は熱圧着ボンディングで形成する。熱圧着の温度は120〜130°Cと従来技術で作れるプロセスを使う。

これらを衣服にも熱圧着で形成するプリンテッドエレクトロニクスでは、心拍数測定向けの圧力センサや体温測定の温度センサ、あるいは生体測定センサ、ハプティクス用振動センサ、LEDライティング、電源としてのソーラーセルとDC-DCコンバータ、NFCアンテナ回路などを作成した例を示している。ハプティクスでは超小型モータを利用して通知するような応用を意図している。例えば、真夏の炎天下での作業員の衣服やヘルメットの内側に温度センサや湿度センサを設け、熱中症の危険性を体への振動によって知らせることができる。

ここではプリンテッドエレクトロニクスでさえ、IoTとしても利用できる。身体のデータをメモリに貯めておき後になってスマートフォン経由でクラウドに上げ、解析する。あるいは肌に直接付けるヘルスパッチは使い捨てタイプにして、心拍数やパルスオキシメータSpO2(動脈血酸素飽和度)などをばんそうこう方式で測定する。こういった健康管理や医療、スポーツテクノロジーのセンサなどが主な用途となる。

(2020/03/03)
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