日本市場で半導体がよく売れる、米ディストリビュータMouserの秘密
半導体ディストリビュータのMouser Electronicsが日本市場で販売額、顧客数とも伸ばし続けている。WSTS(世界半導体市場統計)によると、世界の半導体市場は2019年に前年比12%も下落したが、Mouserの世界売り上げは1%しか落ちなかった。日本では販売額で前年比9.5%成長を遂げた(図1)。中でも半導体と組み込み系、センサなどが成長した。
図1 マウザージャパンの前年に対する販売額の伸び 未上場のため決算内容は公表していない 出典:Mouser Electronics
Mouserは元々、米国テキサス州に強い地方のディストリビュータにすぎなかった。それが、世界的な投資家であるWarren Buffett氏率いる投資会社Berkshire Hathaway社が2007年にMouserを買収、それ以後Mouserは、米国の一ディストリビュータから全米のディストリビュータへ、さらに世界的なディストリビュータへと発展してきた。日本法人を設立したのが2015年、日本法人の体制を整えるのに時間がかかったが、2017年から飛躍し始めた(図1)。
Mouserの最大の特長は、大量生産製品は扱わないことと、日本法人にマーケティング部隊を強化したことだ。電子機器やデバイスの開発者は、CPUやメモリ、ストレージ、センサ、アナログIC、FPGA、インターフェイスICなど必要な半導体をウェブ上でワンストップで購入したい。それを実現するのがMouserのウェブサイトだ。製品のスペックなどでちょっと聞きたい場合に相談に乗ってくれる人がいればなお良い。日本法人がその役割を果たす。近年、日本語のウェブ上で注文できるとして人気の高いDigi-Key社には、日本法人がない。ちょっとした簡単な問い合わせでも面倒だ。また古くから日本に拠点を持つRS Components社は倉庫を神奈川県に持ち、人は充実しているが、コストがかかりそうだ。Digi-Key、RS共に量産品も扱う。
Mouserがマーケティング活動の一環としてウェブサイトを活用することは言うまでもないが、展示会やセミナーにも出展し、顧客のリード情報を得ることを軸に、顧客が興味ありそうな製品情報を提供する。その他、ダイレクトメールやバナー広告、SNS、SEM/SEOなどのウェブツールも使いプレゼンスを上げていく。地味なマーケティング活動に加え、日本の代理店であるマクニカとも協業する。
ウェブを活性化した結果、ユニークビジター数は2019年12月現在で月間20万人を超えた。これに伴い、メール購読者数も2017年37%増、18年61%増、19年36%増、と急増してきた。
日本での潜在顧客が購入する商品は、まず半導体だ。開発すべきシステムを設計する場合には、まず使う半導体を決め、この後で受動部品を決めていく。
図2 Mouser本社の倉庫・事務棟 とてつもなく広い 出典:Mouser Electronics
日本からウェブなどを通して注文すると、テキサスにある本社の倉庫から出荷する訳だが、注文を受けて、パーツを棚からピックアップしダンボール箱に詰めて出荷準備までのリードタイムはわずか15分(図2)。この後は倉庫の出荷口ではFedexなどの配送業者のトラックが待ち構えており、注文は全て午後8時前ならその日に出荷する。在庫している製品の種類は、2019年第2四半期現在で102万点。
電子部品を保管している倉庫は極めて広く8.44万平方メートルだという。注文から出荷準備まで15分しかかからないため、敢えて自動化する必要もなく、電子部品をピックアップするのは、人手で行っている。ベルト式の垂直型リフトが上下へ回っており、天井近くにある保管棚から部品を取りだし、その部品が作業者の目の前にくるとベルトが止まり、照明が当たり、人がピックアップする。バーコードなどで部品を読みとり管理を行う。
この先ピックアップを自動化する場合には天井に搬送ロボットを設置し、棚から取り出した電子部品を作業者のいる場所に降すという搬送システム(図3)を検討している。Amazonが採用しているシステムに近いとしている。
図3 自動搬送システムの検討始まる 出典:Mouser Electronics
日本の部品メーカーの製品も扱っており、積極的に米国の窓口で扱えるように納入する。ソニーの半導体製品や、日本電産のモーター、双葉電子、日立化成工業、スタンレー電気などの液晶やLED製品などを新たに扱い始めた。さらに増やしていく。