日本無線、新日本無線、リコー電子デバイスの力を見せつけた日清紡の展示会
先週、日清紡グループがプライベートショーを開催した。グループの持ち株会社である日清紡ホールディングスは、今や繊維企業ではない。むしろエレクトロニクス企業と言っても差しつかえないくらいにその比率を高めている。「モビリティ」、「インフラ&安全性」、「ライフ&ヘルスケア」の3本に絞り、未来を見据えた製品やサービスを展示した。
図1 プライベートショーを紹介する日清紡HDの村上雅洋代表取締役社長
犬が人間のような格好をして、「日清紡、名前は知ってるけど、日清紡、何をやってるかは知らない」と歌うCMを覚えている方は多いだろう。かつては、繊維から糸を製造する紡績会社だった。もはや繊維産業は日本を離れた。未来はやはりIT/エレクトロニクスにある。日清紡ホールディングスの代表取締役社長の村上雅洋氏(図1)は、「事業方針は、安心・安全なスマート社会を目指す。そのためにモビリティ事業を拡充していく」と述べている。
ホールディングカンパニー(HD)制度を取ってから10年経ち、日清紡はかつてのような繊維の事業ではなく、環境・エネルギーカンパニーを標榜してきた。今回のプライベートショーではさらに一歩踏み込んで、自動運転を見据えたクルマや航空機、さらには船をも含む「モビリティ(移動体)」や、防災・気象サービスやIoTセンサを駆使したインフラ維持管理サービス、スマートファクトリなどの「インフラと安全性」、そして介護・見守りテクノロジーや医療機器などの「ライフ&ヘルスケア」へと踏み出している。
同グループ傘下には、レーダーや無線機器の日本無線、それらの応用に向けた半導体の新日本無線、パワーマネジメントICのリコー電子デバイスがいる。エレクトロニクス事業は売り上げの40%を占めている。今回のプライベートショーでは、これら3社の力を結集させた、未来志向の展示となった。その一部を紹介しよう。
船舶から空港、クルマまでカバー
日本無線が得意なレーダーや通信技術を使った、船の航行システムがある。航海する場合はまずどのルートを通るかを描く海図を航海計画として届出しなければならない。この海図システムを電子化し大画面ディスプレイ上の地図と併せて、航路の近傍の情報や寄港地情報などを載せていくが、電子化することで簡単に描けたり情報を追加したりできる。かつては100%紙で海図を書いていたが、今でも紙ベースが多いという。船舶ではさらに、他の船との衝突を避けるためのシステムも設計しており、クラウドに保存している自船や他船の情報や気象情報などを分析し、状況を自動的に判断する自律航行を可能にしている。レーダーやLiDAR技術などが威力を発揮する。
クルマ市場でも、交差点などで脇道からのクルマや人の有無を知らせてくれるV2Xシステムにも力をいれる。ここでは760MHzの電波によるDSSSシステム、76GHzのミリ波による歩行者やクルマを検出するDSSSシステムなどを展示した。車載用のV2X端末も展示している。DSSSは、セルラー通信を使うシステムではなく、1km程度まで届くWi-Fiの一種であるIEEE 802.11pという規格を使ったシステムで、欧州で進んでいる。
ドップラーレーダーを使って、動いている人やクルマも検知しそのスピードも計測できる3次元認識システムも開発している(図2)。AIを使わないため学習させる時間も手間も不要だ。レーダーによる距離情報とカメラによる図形情報を組み合わせることで、複雑に交差する複数の歩行者も検出できる。ドップラーレーダーセンサのボードは新日本無線が開発したもの。
図2 ドップラーレーダーを使って人の3次元分布を描く
日本無線は、レーダーシステムを使い、高速道路を走行中のクルマを検出、その数から交通量を算出できる実証実験を行っている(図3)。
図3 高速道路でのクルマの量を測定・表示するシステム
航空機システムでも、空港内の滑走路にいる飛行機の位置を電波によって検出するシステムを開発、すでに仙台空港で実証実験(PoC: Proof of Concept)を行っていることに加え、今年中にベトナムに納入する予定だという。ここでは1GHzの電波を2台の送信機で発信し、8台の受信機で期待からの電波を受信し、そのデータを管制塔まで光ファイバで送ることで、管制塔からわかりにくい滑走路内の飛行機の位置を検出できる。
日本無線はさらにレーダーを使い、相対速度時速100kmで飛行するヘリコプターやドローンとの衝突を回避するシステムをNEDOと共同で開発しPoCを行った。レーダーは回転式で大きな試作品だったが、2020年度から小型・省電力化を図っていくという。
クルマのドライバからしか見えない、フロントガラス上に情報を映し出すヘッドアップディスプレイ(HUD)が使われ始めているが、RGBのレーザーをスキャンしながら画像を描く次世代HUDを展示した(図4)。HUDに使うレーザードライバやMEMSミラースキャナーなどを開発するリコー電子デバイスが提案した。
図4 次世代のレーザースキャン方式のヘッドアップディスプレイ
インフラ系ではゲリラ豪雨を迅速に検出
インフラ&安全性のシステム展示では、ゲリラ豪雨をいち早く察知するための高速スキャン気象レーダーを開発しており、積乱雲の発達過程を捉えゲリラ豪雨をできる限り早く見つける技術を開発している。従来の気象レーダーだと全天をスキャンするのに約5分かかっていたが、これを30秒足らずでスキャンできるため、ゲリラ豪雨の発生を迅速に見つけることができるようになる。
インフラ維持管理サービスでは、コンクリートの側面を走行するロボットを展示(図5)、超音波診断によってコンクリート内部の空隙(ひび割れ)を見つけられるようになる。
図5 コンクリート壁面を走行し壁面内部を超音波で検査
ハンディタイプの超音波診断装置
ライフ&ヘルスケアでは、ハンディタイプの超小型超音波診断装置を展示した(図6)。ディスプレイはスマホで代用し、超音波発振器と受信センサを小型にしたことで、妊婦が自宅で胎児の様子をチェックできるようになる。ハンディタイプの装置とスマホとは無線でつながっている。
図6 スマホと組み合わせるハンディタイプの超音波診断装置
24GHzのミリ波(厳密にはマイクロ波)レーダーをクルマの天井に取り付け、車内に幼児が残っていることを検出するシステムも提案した。子供が眠っていて呼吸しているとその動きをミリ波レーダーが検出し、周囲に知らせることで、子供の命を助けることができる。
これらの展示は一部であり、紹介しきれないが、日清紡が大きく変わり、特に傘下の日本無線や半導体の新日本無線、リコー電子デバイスが今後、力を発揮するビジネスが提案されていることが明らかになった。