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工場内5Gをオムロン、NTTドコモ、Nokiaが共同で実証実験開始

オムロンはNTTドコモおよびNokia Solutions & Networksと協力して、製造工場内に第5世代無線通信技術(5G)を活用する実証実験(PoC: Proof of Concept)を行うことで合意した(図1)。実験用の周波数はNTTドコモが総務省から取得し年内には始める。

図1 (左から)NTTドコモ、Nokia、オムロンの三社が合意

図1 (左から)NTTドコモ、Nokia、オムロンの三社が合意


オムロンのような製造工場を持つメーカーは、多品種少量の世界への対応をますます迫られている。変種変量への対応はマスカスタマイゼーションを狙うものであり、品種に応じて現場は自由にレイアウトを変更できるような生産システムにしたい。加えて、現場は熟練工の定年退職をはじめとした人材不足に陥っている。

変種変量に対応するためには、FA(Factory Automation)を駆使した自動化現場で、製造装置を自由自在に動かしたい。しかし、これまでの現場の常識では機械同士はデータ速度100MbpsのEthernetで通信することが大前提だったために、機械を移動させるという考えがなかった、とオムロン執行役員でインダストリアルオートメーションビジネスカンパニーの技術開発本部長である福井信二氏は述懐する。5Gになればこれまでの固定概念は不要になる。装置は自由自在にレイアウト変更できるようになる。Ethernetのような有線通信を使わなくて済むからだ。自由にレイアウト変更可能となれば、直線的なレイアウトだったライン(図2)を即座にセル方式(図3)に変えることが可能になる。セル方式の工程間で製造中の仕掛製品を搬送するのはロボットだ。


「機械」によるフレキシブル生産の進化

図2 製造ラインをモジュール方式に切り分け、自由に図3のように組み合わせることができる


図3 直線上の製造ラインをセル方式にレイアウト変更可能に 出典:オムロン

図3 直線上の製造ラインをセル方式にレイアウト変更可能に 出典:オムロン


一方、人手が必要な現場では、技能の高度な習熟を助けるために、熟練工のノウハウをAI化し、ミスしやすい作業ポイントをリアルタイムで表示し教えてくれるシステムが必要になる。このようにすると、作業者は習熟度を気づくようになり、自ら修正していくようになる。この結果、作業は効率化し、作業者のモチベーションは上がっていく。ノウハウをAI化するためには、熟練工の操作状況をビデオに録りその動きを学習しデータとして積み上げていく。その学習データを元にポイントをまとめてAIでデータ化しそれを保存しておく。そのデータを現場の作業者にフィードバックする。ビデオの転送や作業手順のフィードバックには5Gを使う。

5Gの通信ネットワークを構築し運用するNTTドコモは、今年の9月20日から5Gプレサービスを開始する。ラグビーのワールドカップ2019開催に合わせて、アップリンクの性能改善が期待されている。イベント会場でみんなが写真や動画を撮ってSNSにアップロードしても回線が混雑しすぎないように対処しなければならない。

ドコモの5Gサービスには、さまざまな分野から2800社以上が参加しており、うち情報サービスとコンテンツ提供が24%、卸売り・小売り・飲食が19%に対して、製造業は17%もある。その他の産業はどれも10%未満の事業ばかりだ。今回の実験では製造現場で5Gが使えるかどうかを確認することがドコモの使命となる。工場の現場では、さまざまな金属部品が装置や装置を支えるインフラとなるため、5Gの無線電波が飛び交うと、反射や、場合によっては共鳴があるかもしれない。また機械が出すノイズもある。「5Gの周波数にどのような影響を及ぼすのかを知りたい」、とNTTドコモの執行役員であり、5Gイノベーション推進室長でもある中村武宏氏は述べている。

また、工場では映像を流す高速データの場合も、IoTセンサの温度や加速度センサの振動などの低速データの場合も、共に5Gなら周波数利用効率を上げられる。映像はセルラーネットワーク、IoTセンサはNB-IoTやCat-M1などLPWA(IoT専用の通信ネットワーク)でデータを送れるからだ。5Gネットワーク基地局で受信したデータをコア基地局へネットワークスライシングで、高速データと低速データを割り振ることができるはずだが、これも確認していく。

5Gの通信機器を提供するのがNokiaだ。Nokiaは4Gと5Gで通信機器市場の一角を占めてきたが、日本でもドコモだけではなくソフトバンクにも機器を提供している。Nokiaもドコモと同様、工場内での5G利用に期待を示しており、未来の工場に5G通信を導入することで、自己学習やIoT、360度認識などを駆使できることで、より安全性が保たれると期待している。Nokiaの日本法人ノキアソリューションズ&ネットワークスの執行役員兼NTT事業本部長の木田等理氏は、工場でのIoT市場は130〜400兆円の市場規模になるとノキア傘下のベル研究所は見ているという。

(2019/09/18)
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