NECが有人ドローンに参入、インフラの主導権を握る構え
NECが「空飛びクルマ」とも言うべき人間を搭載するドローンの開発に取り組む、と発表した。ただしドローンを作るわけではなく、ドローンを制御するための自律飛行とGPSによる機体位置把握、モータドライブ技術など基盤技術を開発し、ハード面だけではなくソフトウエアやデータ活用サービスへとつなげていく。このほど無人飛行をデモした(図1)。
図1 無人ドローンの飛行
NECは新たな移動手段として、有人ドローンの開発メーカーである日本のスカイドライブ社に出資しており、将来の移動環境の管理基盤(インフラストラクチャ)に注力し始めた。ドローンを未来の空飛ぶクルマとしてさまざまなサービス、物流や旅客、医療(ドクターヘリ)、交通などを提供する事業者に向けた管理基盤を提供する(図2)。通信で言えば、インフラとなる通信機器やソフトウエアを、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクのような通信オペレータに提供する通信機器メーカーのような会社を目指す。こう考えるとNECが参入する意義はある。
図2 NECが取り組む空飛ぶクルマの基盤づくり
NECは、これまで衛星運用技術や航空管制技術、通信・飛行制御技術、サイバーセキュリティ、交通管制技術などに実績を積んできた。この経験を活かし、将来の移動手段を支えるインフラ企業となるつもりだ。
空飛ぶクルマを作る一般社団法人CARTIVATORには、さまざまな企業がスポンサ契約を交わしており、NECもその1社だが、他にもパナソニックや矢崎総業、トヨタ自動車工業、富士通、東京海上日動、日本ナショナルインスツルメンツ、MathWorks Japan、アイシン精機などさまざまな企業が名を連ねている。スカイドライブにも多くの企業が部材や人材を提供しているが、出資者はNECのみだとしている。
NECは我孫子工場において試作機の飛行をデモしたが、デモ会場は20メートル四方の土地に10メートルの柵をめぐらし、その中で飛ばした(図3)。飛行機体は長さ3.9m、幅3.7m、高さ1.3mで、離陸重量は150kg。ドローンの飛行では、飛ばす場合には私有地といえども国土交通省に届け出なければならないが、今回の実験のように高いフェンスで取り囲んでいれば、その必要はない。あくまでも機体検証のための施設である。
図3 実験場はフェンスで囲み、飛行させる場合には全員フェンスから出る
今回は無人で飛び立てるかどうかだけの検証であるため、テクノロジーは非常にプリミティブだ。機体の自律制御では、あくまでもまだ姿勢制御だけである。ドローンを大きくするとヘリコプターのように吹き返りの風を受けるため、地上付近では不安定になる。ここに姿勢制御が威力を発揮する。この実験では高さが1.5mまでならその影響を受けるが3m以上だともはや受けない、ことを実証している。ただし、ドローン同士や他の物体との衝突を避けるためにLiDARによる自律制御はまだ搭載されていない。
メディアへの公開では、飛行は自動で行い、実際に飛行デモが終了すると、インバータをファン(図4)で冷やすという作業に追われていた。インバータにはIGBTを使って、回転を自由に変えるが、このパワートランジスタはあまりにも発熱が激しいため、着地したら係員がすぐに中に入り、ファンを取り付けた。
図4 インバータのパワートランジスタを冷却するための小型のファン
このことは、有人ドローンにはSiCやGaNのような高効率のパワートランジスタが欠かせないことに他ならない。SiC MOSFETのように高速で大電流をスイッチングするとIGBTに比べ、エネルギーを蓄えるコイル(リアクトルあるいはインダクタ)をぐっと小さくできるため小型軽量を図れる。地上でのクルマ以上の効果がある。
有人ドローンと通信する手段として、5Gのようなセルラーネットワークは、「視野に入れている」と答え、Wi-FiやBluetoothも選択肢だと答えたが、後者は通信距離が短いだけに有人ドローンが実用化できる時期には5Gは当たり前になっている頃である。やはり5Gは本命だろう。
この先の自律制御として、単なる姿勢制御から衝突防止のLiDARやレーダーを使った自律運転は欠かせない。しかもクルマの自動運転の次に有人ドローンの時代が来よう。空を飛ぶ以上は絶対に他のドローンや物体とは衝突してはならない。地上に落ちてしまうからだ。自律運転にして、人間が操縦しない仕組みが有人ドローンには必要だろう。そうなると有人ドローンのサービス開始は、早くても2030年以降になるだろう。
NECがデモする前の8月2日に、三重県と福島県がドローンで協力する協定を結んだ。福島県は相馬市復興工業団地の隣と、浪江町に「福島ロボットテストフィールド」と名付けた、ドローンなどの飛行体のためのテストコースを建設中だ。島の多い地方の三重県は、島々を結ぶ交通手段として有人ドローンを活用したいと思っている。両者の思いが結びついて、協定に至った。経済産業省が支援するこのプロジェクトでも実用開始時期を2023年としているが、まだ安全性はほとんど考慮されていない。クルマの安全性を考えると早くても2030年になろう。LiDARやレーダーの普及と小型化がドローンには必須だからである。