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ON Semi、車載用CMOSイメジャーに加え79GHzレーダ、LiDAR受光器も新発売

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自動車分野と工業用で売上額の6割近くを占めるON Semiconductorが、自動運転に向けてセンサにますます磨きをかけている。ON Semiは自動車市場でのCMOSイメージセンサのトップメーカーであるが、これに加えて79GHzのSiGeレーダやLiDAR用の2次元フォトダイオードアレイの新製品販売にも力を入れている。

CMOSイメージセンサといえばソニーが強いが、ソニーはiPhoneをはじめとするスマートフォンでは圧倒的に強い。しかし自動車用には全く弱い。自動車用とは要求性能が非常に違うからだ。スマホは人物をきれいに撮ることが主目的なため明るく撮れ、画素数は多い方がきれいに映る。しかし自動車用だと画素数が多すぎてもいけない。数十メートル先の人間や車を検出することが優先される。遠方にある物体を検出するには画素数よりもSN比(Signal to Noise ratio)が高い方が好ましい。画素数が多くても遠方の物体の映像のSN比が劣化しては使えないからだ。もちろん、自動車用途では使用温度環境が悪いため、高温でも動作を確保できることもスマホとは違う。

ダイナミックレンジも広げる必要がある。例えば、トンネル内から出口の景色を見る場合や、その逆にこれからトンネルに入る前のトンネル内の様子は暗すぎて見えないことが多い。このため、暗い所と明るい所の両方とも良く見えるようにするためダイナミックレンジを広げなければならない。人間の眼の限界を超える必要がある。CMOSセンサでは画像を重ね合わせ処理するLSIをその近くに設置し、暗い所の映像と明るい所の映像の両方を撮影し、重ねるという処理を映像処理プロセッサで行えばダイナミックレンジを広げることができる。

ON Semiは、ダイナミックレンジが広く、しかもSN比が劣化しにくい新型CMOSイメージセンサ「AR0233」の量産を開始した。このCMOSイメージセンサチップは、ダイナミックレンジが140dBと広く、フリッカーも抑えている。解像度は260万画素。ダイナミックレンジを広げるため、4回露光しそれらの画像を重ね合わせることで、暗い所も明るい所も同時に鮮明な画像を得ることができたという。もう一つの特長であるフリッカーは、LEDドライバがLEDあるいはLEDストリングスを順番に時分割で点滅させていくために起きる現象。カメラでは一瞬の高速画像を捉えるために起きるが、人間の眼は高速に捉えられないためにごまかされている。


図1  ON Semiconductor Intelligent Sensing Group, Automotive Solutions DivisionのVP and General ManagerのRoss F. Jatou氏

図1  ON Semiconductor Intelligent Sensing Group, Automotive Solutions DivisionのVP and General ManagerのRoss F. Jatou氏


加えて、「CMOSイメージセンサだけでは自動運転はできない。濃霧や吹雪など人間の眼で見えない映像を捉えることができないからだ。このため電波の反射で物体を検出するレーダや、距離を測定するLiDAR(Light Imaging and Ranging)なども利用する」とON Semiconductor Intelligent Sensing Group, Automotive Solutions DivisionのVP and General ManagerのRoss F. Jatou氏(図1)は述べる。ON Semiはそれぞれの新しい半導体チップをリリースした。

レーダは通常ミリ波を使って直進性を活用するが、電波は周波数が高くなればなるほど到達距離は短くなるという性質がある。つまり、360度に渡って全方位で飛ぶ低周波から高周波に進むにつれ、指向性が強まると共に到達距離が短くなる。そこで、電波を発射するアンテナを多数設けて、位相と振幅を変えることで狙うべき電波のビームの形を調整するビームフォーミング技術も併用する。ビームフォーミングはもともと飛行機を検出する航空用のレーダで使われ、かつては機械的に空間をスキャンしていた。しかしアンテナを機械的にぐるぐる回す方式だと風雨に弱くさびに悩まされていた。このため電子的にスキャンする平面アンテナに移行するようになった。

NR4401は、SiGeプロセスでWLP(wafer level package)に納められたICで、4×4のMIMOアンテナで電波を送受信する。このチップは、一つのレーダで長距離および短距離の物体を検出することが特長で、ある意味自動車に特化したビームフォーミングのミリ波ICである(図2)。今後、アンテナ共振器を半導体パッケージ内部に作り付けるAiP(Antenna in Package)技術も検討の余地があるとしている。


NR4401: 革新的車載向けレーダー・トランシーバー・デバイス

図2 79GHzの車載レーダ用SiGeチップ 出典:ON Semiconductor


LiDARもレーダと同様、物体の反射を利用するが、距離を測る点がレーダとは異なる。LiDARではレーザの送受信を利用する。やはり空間にある物体を検出するため、空間をスキャンする装置が必要となる。従来はグーグルカーの屋根の上にぐるぐる回る方式のLiDARが使われているが、機械式のLiDARもやはり長期使用で錆や海底による摩耗の問題が残る。

そこで、ON Semiは、受信側に2次元フォトダイオードアレイを用いた。「SPAD(Single Photon Avalanche Photo Diode)アレイ」と呼ばれるこのイメージセンサはIRレーザ光の物体での反射を利用して光の速度から物体との距離を測定した結果を2次元面での物体を捉えることができる(図3)。光を発するレーザ側は3次元的に奥行きを含めてスキャンするため、2次元画像の奥行きは色の違いで表現する。少なくとも受光側は、測距結果をスキャンすることなく表現できるため、機械的な操作は不要になる。


SPADアレイ LiDAR / ToF高精度深度マッピング

図3 LiDARの受光側を2次元にすることで機械的なスキャンは不要になる 出典:ON Semiconductor


今後、発光側でもVCSEL(表面発光レーザ)のように小さなレーザを数十個集積できれば、発光側も機械的な走査は不要になり、可動部分はなくなる。ただし、この場合は大出力レーザではないため短距離の物体検出に留まるであろう。

参考資料
1. LEDをフリッカーなしで認識できる車載用CMOSセンサをON Semiが開発 (2015/10/27)

(2019/06/21)

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