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5GとLPWAで賑わったワイヤレスジャパン

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5月下旬に東京ビッグサイトで開かれたワイヤレスジャパンでは、5Gで何ができるというデモや、LPWA(低電力広域)のようなIoT専用通信ネットワークで賑わった。5Gでは映像を瞬時に送受信し、しかもクルマを使った例が多い。LPWAは遅いデータレートながらIoT専用の通信として着実に進みつつある。

ワイヤレスジャパンはこれまでスマートフォンや携帯電話の新製品が多かった。しかし今年は5Gがブームになっている。5G の特長は高速のデータレートと低遅延であり、この二つの特長を利用した応用例が会場の「5G Tokyo Bay Summit」ブースで展示されていた。例えば、自動車産業のティア1サプライヤの一つフランスのValeo社と協力し、クルマの前方にあるクルマの前を横切る歩行者を後ろのクルマからも見えるように映像を重ねるというデモがあった。2台のクルマのフロントガラスに設けた、それぞれのカメラの映像を重ねることで、前のクルマの前を行く歩行者をリアルタイムで見ることができる。これまでは前のクルマの前を見ることができず、より見通し良く見えることを実験した。ここでは前のクルマの映像を、周波数4.5GHzの5G通信で後ろのクルマに低遅延で送ることができるため、後ろのクルマのECUシステムで2枚の映像を重ね合わせることができた。

もう一つ、情報通信研究機構(NICT)のデモで、スマート電子ミラーを提案した。これはT字路や交差点で、横の道路を走行する自動車をステレオカメラで撮影し地図上で合成し、クルマが近づいていることを認識するというデモである。


図1 4.5GHz帯での5Gビームフォーミングの実験をNECが行った 筆者撮影

図1 4.5GHz帯での5Gビームフォーミングの実験をNECが行った 筆者撮影


二つのデモは、映像を無線で飛ばし、受信した映像を圧縮処理しほぼリアルタイムで表示するというシステムであり、共に映像という大きなデータを無線で飛ばし受けるという5Gの特長を生かしたデモといえる。その他、多数の受送信アンテナであるマッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)を使い、ビームフォーミングの実験をNECがデモしていた(図1)。ここでは、4.65GHzで帯域100MHzの周波数帯を使い、64個のMIMOアンテナを電子的に動かし最大8端末まで同時に通信させることに成功した。ビームフォーミングは高周波になればなるほど直線性が増すために、うまく制御しなければならない。5Gの本命であるミリ波帯では必須になる技術。こういった実験は世界をリードしているといっても過言ではないだろう。

メッシュネットワークを全面カバーするSi Labs
もう一つの目玉は、IoTの通信ネットワークである。メッシュ構成のネットワークトポロジーと、スター構成のネットワークアーキテクチャのLPWAがある。メッシュ構成はビルや家庭など屋内用のネットワークに向くが、LPWAは屋外のIoTからゲートウェイ(中継局)に適している。今回は中継器をメッシュネットワークで構成するZETA Allianceもプレゼンスを高めた。

メッシュ構成には、ZigBeeやZ-Wave、Bluetooth Meshなどがあり、数十~数百個といった多数のIoTデバイスを構成するのに適している。Silicon Labs社は、メッシュネットワーク用のソリューションを網羅することに注力しており、Bluetooth MeshやZ-Wave、Thread、ZigBee、さらには免許不要のサブGHzの特定小電力無線のデモまでカバーしていることを見せた。例えば、ワイヤレスSoCのGeckoシリーズの中でもMighty GechoはThread、ZigBee、Bluetooth、特定小電力無線といった複数の標準プロトコルスタックに対応している。

Silicon Labsは、BluetoothやWi-Fiチップをプログラミングせず容易に開発するための開発ツールであるBluetooth Xpressソリューションを提供する。ファームウェア開発が要らず、そのままUARTでマイクロコントローラとつなげられる。もちろん、独自の特性やセキュリティを設定できるように、Bluetooth 5 BGX13モジュール(図2)を使ったハードウエアボードとソフトウエアSimplicity Studioも提供する。


図2 マザーボードの横にドーターボードが差し込まれ、その上にBluetooth 5 BGX13モジュールが実装されている 筆者撮影

図2 マザーボードの横にドーターボードが差し込まれ、その上にBluetooth 5 BGX13モジュールが実装されている 筆者撮影


さらに、メッシュネットワークのZ-Wave方式の開発ツールを提供した。メインボードに無線のZ-Waveドーターボードを差し込むわけだが、無線ボードに搭載するモデムSoC、および水晶発振子とRFインピーダンス整合回路を1パッケージ内に集積したSiPモジュールも搭載している。

ゲートウェイをメッシュネットワークでつなぐ
LPWAは本来、スター構成のネットワークだが、IoTデバイスを束ねたゲートウェイを中継器として中継器から中継器へとメッシュネットワークを構成するZETAネットワークも啓蒙活動を展開している。ZETAの特長は、超低消費電力、低速のデータレート、IoTデバイス当たり5ドル以下を目指す低コスト、である。各中継局はそれぞれのエネルギーハーベスティング(ソーラーや風力)やバイオマスなどの発電所を持つ、自家発電自立型のアクセスポイントとなる。

ZETA方式のエコシステムであるZETAアライアンスでは、英国のエジンバラ大学が開発し中国深圳のベンチャーZiFi Senseが商用化した次世代のLPWAネットワーク方式を使うエコシステムが構築されている。低コストが最優先で、農業や水産業などで温度や湿度、CO2濃度、照度、水分量、pHや酸素などを測定してゲートウェイに集める。データレートは100bps〜50kbpsと低速で消費電力は小さくバッテリ寿命5~10年を想定した用途にある。サブGHzの免許不要の周波数を使い広域をカバーする。IoTセンサから中継器まで10km、都市部でも6km程度まで飛ばすことができる。

ZETA Allianceと全く対照的なのは、LPWAネットワークのゲートウェイに特化したMultiTech社だ。今回のワイヤレスジャパンには出展していなかったが、1990年代にアナログモデムの設計製造からスタートし、最近はLPWAのデジタルモデムを扱っている。このほど日本にオフィスを置き、LPWAだけではなく、セルラーネットワークのLTE Cat-M1やNB-IoTなどの通信方式にも対応するモデムを設計・販売する。半径1km内のエリアをカバーする。

(2019/06/14)

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