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センサからクラウドデータ解析・可視化まで実現可能なIoTエコシステム誕生

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IoTセンサからデータ解析まで使えるプロジェクト「Degu」が発足した(図1)。組み込み機器の企画設計製造販売を手掛けるアットマークテクノがファシリテータとなり、全7社がチームとして協力した。IoTは1社だけではシステム構築まで至らない。このため数社によるチーム協力が成否のカギを握る。

図1 Degu IoTプロジェクトで協力する7社

図1 Degu IoTプロジェクトで協力する7社


その他のメンバーは、IoTデバイス開発設計のSeeed社、製造販売のコアスタッフ、半導体のNXPジャパンとNordic Semiconductors、部品と基板の太陽誘電の6社。クラウドサービスのAWS(Amazon Web Service)も協力する。IoTデバイスであるDeguセンサの設計に必要な回路図や部品表(BOM)などのハードウエア情報と、OSや基本ソフトウエアやドキュメントなどの開発情報をGitHub上でオープンソースとして公開する。

「IoTシステムでは、さまざまな要素技術は揃っているが、これらを集めても使える状態になっていない」。こう述べるのは、アットマークテクノの代表取締役社長の實吉智裕氏(図 2)だ。IoTデバイスはセンサやA-Dコンバータ、マイコン、送受信機などの部品を集めるだけでは、できない。仮にWi-Fiでインターネットにつなげても、その先(アドレス)を指定し、クラウド上でデータを収集・管理・解析し、価値あるデータをクラウドに保存し、ユーザーのスマホやパソコンなどから可視化できるようにするためのソフトウエアプラットフォームを持たなければ使えない。だからこそ、6社がまとまって、どのようなユーザーでもIoTシステムを構築できる体制を作った。


図2 アットマークテクノ代表取締役社長の實吉智裕氏

図2 アットマークテクノ代表取締役社長の實吉智裕氏


このIoTセンサデバイスDeguは、さまざまなセンサをコネクタに指すだけでIoTデバイスとして使える。ネットワークには、メッシュトポロジーを使い、データをセンサからセンサへ送り最後にゲートウェイを通してWi-FiやLPWA、セルラーネットワークを経てインターネットにつなげる。セルラーネットワークやLPWAでつなぐためにはSIMカードが必要となる。ここではメッシュネットワークを使い、IoTデバイスからIoTデバイスへデータを送り、最終的にゲートウェイを通して3G/LTEなどのセルラーネットワークにつなげる(図3)。このゲートウェイにSIMが入る。


図3 このIoTはメッシュネットワークを使いAWSでデータ収集・解析を行う 出典:アットマークテクノ

図3 このIoTはメッシュネットワークを使いAWSでデータ収集・解析を行う 出典:アットマークテクノ


IoTデバイスDegu(図4)は、アットマークテクノとSeeed社が試作開発し、コアスタッフが量産製造する。センサは、200種類の中から選択・搭載できるようにモジュール構成にしてあり、そのGroveモジュールはSeeed社がもともと持っている製品。さらにIoTデバイスにはNXPの「A71CH Plug&Trustセキュア・エレメント」を搭載しており、クラウド上でDeguデバイスを認識するために使われる証明書(秘密の鍵)をセキュアに保管できる。


図4 Deguデバイスは200種類のセンサをつなげられる

図4 Deguデバイスは200種類のセンサをつなげられる


メッシュネットワークには、IEEE802.15.4規格の一つThreadを用いた。Thread規格は、省電力ながら20~30メートル先まで通信でき、通信の堅牢性が高いからだという。Thread規格に準じた半導体チップはNordic Semiconductors社製nRF52840を使い、それを組み込んだモジュールは太陽誘電のEYSKBNZWBを使っている。

インターネットのデータはクラウドAWSのIoT Coreサービスに対応しており、センサデータをAWS上にある機械学習やディープラーニングなどのサービスを通してセンサデータを活用できる。IoTデバイスDeguには、生のセンサデータではなく、すでに前処理で加工されたデジタルデータを送信するように前処理計算ができる簡単なエッジコンピューティング機能を持ったNordicのSoCであるnRF52840を搭載している。このチップはThread通信機能に加え演算機能も持ち併せている。MicroPython言語でデータの設定や前処理を指定する。使用するOSはLinux FoundationがサポートするRTOS(リアルタイムOS)のZephyr。

AWS上では、IoT向けのソフトウエアプラットフォーム(データ収集・管理・解析を行う)AWS IoT Coreにつながる。データ分析では機械学習のサービスを利用でき、その結果をスマホなどで可視化するためのアプリケーションソフトも依頼すれば作成できる。

IoTシステムは、従来のような電子機器を作って終わり、という訳にはいかない。ユーザーのシステムが正常に稼働しているか、故障の予兆はないか、といった応用が期待されているため、設置後も稼働データを集め解析し、顧客に知らせるという仕組みまで作る必要がある。だからこそ、新しいビジネスモデルが求められる。その一方で、メーカーにとっては究極の多品種少量ともいえるべきハードウエアとなるため、低コストで作るための仕掛けが求められる。

このエコシステムでは、1台の共通するハードウエアDeguセンサを作り、ソフトウエアでカスタマイズする。カスタマイズできるようにするための評価キットも用意している。まるでDIY(Do it yourself)感覚でIoTデバイスを試作開発できる。1)センサ機能を選択、2)ネットワークを設定、3)オープンに公開されているソースコードGitHubからサンプルコードをダウンロードし、デバイスにインストールする。さまざまなセンサを使えるGroveスターターキットとDeguベースユニットを含むDeguセンサスターターキットが入手できる。Deguセンサデータを束ねるゲートウェイ開発キットも5万9500円で販売する。

AWSのプラットフォームをベースにソフトウエア開発しているパートナーが国内に数百社、海外には数万社がいるため、ビッグデータ解析やアプリケーションの開発も容易だという。今後、センサのコミュニティも作っていきたいと、ファシリテータ役の實吉氏は述べている。

(2019/03/22)

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