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東大のAIチップ設計拠点が活動開始、カギはデザインハウス

東京大学は、産業技術総合研究所と共同で、AI(人工知能)チップを開発するため設計拠点を本郷キャンパス内にある武田先端知ビルに築き、活動を開始した。設計ツールやハードウエア検証するための論理エミュレータを揃え、中小のベンチャー企業を対象に提供する。

図1 東大本郷に拠点を構えたAIチップ開発サポート 出典:東京大学

図1 東大本郷に拠点を構えたAIチップ開発サポート 出典:東京大学


今月、開催された「AIチップ設計拠点活動開始記念シンポジウム」では、産業技術総合研究所の中鉢理事長や東大副学長の小関敏彦氏をはじめ、多くの方々の挨拶があり、北海道大学の本村真人教授が記念講演を行った。AIチップ開発を進めてきた本村教授は、これまでのCPUとは違う、AI処理のワークロードに寄り添うコンピュータが必要とされるとして、AIチップの必要性を訴えた。


図2 いろいろなAIベンチャーに使ってもらう仕組み 出典:東京大学

図2 いろいろなAIベンチャーに使ってもらう仕組み 出典:東京大学


AIチップは、四則演算を中心とする「計算」が得意な従来のコンピュータと比べ、直感的・知能的な情報処理を得意とする。このため、それぞれ補完し合って用途に応じて使うことが望ましい。従来のコンピュータが手続き型情報処理とすれば、AIコンピューティングはデータフロー型と言ってよいだろう。本村氏は、新しいAIコンピューティングのフレームワークを従来の手続き型コンピューティングと違い、ソフトウエアとハードウエアがつながる結節点(ノード)が多数存在すると考えている(図3)。このため、結節点を決めたものがフレームワークを制するだろうと予想する。


図3 新しいアーキテクチャが求められている 出典:北海道大学 本村真人教授

図3 新しいアーキテクチャが求められている 出典:北海道大学 本村真人教授


結節点を決めるためには、さまざまなAIチップを作り、その中から汎用性を見つけることがカギを握る。だから、AIチップの開発が急がれている。本村氏がAIチップを開発しているのはこのためだ。米国ではDARPA(国防総省の高等研究計画局)が主導するCRAFTプロジェクトや台湾のCIC(Chip Implementation Center)などがAIチップ開発をリードしており、中国も1000億円規模のAIチップの国家プロジェクトがあるという。日本でもAIチップの開発を促進する、今回の東大・産総研共同プロジェクトを歓迎する。

成功のカギはデザインハウス

産総研および東大は、経済産業省「産業技術実用化開発事業費補助金(AIチップ開発加速のための検証環境整備事業)」、およびNEDO「AI チップ開発加速のためのイノベーション推進事業/研究開発項目◆AI チップ開発を加速する共通基盤技術の開発」に共同で提案し、採択されたことで政府からの出資を得ている。

AIチップを設計するデザイナー向けのツールを揃えることも重要だが、VLSI設計ではVHDLやVerilogといったVLSI設計言語を習得しなければならないため、AIのアルゴリズム開発者にとって、VLSI言語習得がカベになる。AIの優れたアルゴリズム開発者は、VLSI設計言語などいまさら習得したくない。そのような時間があれば、もっと良いアルゴリズム開発に集中したい。この問題を解決してくれるのがデザインハウスだ。デザインハウスはVLSI設計言語を使ってRTL出力まで論理設計できるプロ集団。AIエンジニアの要求を聞き、それを論理記述に落とすことが彼らの仕事である。

ただし、AIチップ開発拠点では、設計ツールをアカデミックディスカウントで購入したため、デザインハウスや外部のVLSI設計言語の習得プロにツールを使わすことはEDAベンダーが許さないだろう、という声も聞く。ということは、AIのアルゴリズム開発者たちがこの拠点に来てもVLSI設計言語を習得し、RTLレベルまでプログラムしてゆかなければならないとしたら、これらの設計ツールは宝の持ち腐れになりかねない恐れも出てくる。EDAベンダーと拠点との話合いが必要であろう。

さらにAIでは学習されたデータがTensorFlowやCaffe 2などのフレームワークのフォーマットで書かれ、クラウドに格納されていることが多い。これらの学習データを推論チップに使うためには、VLSI設計言語への変換やコンパイルが必要となる。推論チップにはこの変換作業は不可欠である。この作業に関してもAI開発者にVLSI設計言語の習得を強要することになる。これは無理がある。やはりデザインハウスをAI設計に介在させる必要がある。これは早急に解決を図らなければならないだろう。

(2019/02/28)
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