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Infineon、日本市場でセキュアマイコンAURIXを強化する

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Infineon Technologiesが日本の車載市場でマイコンを強化し、トップのルネサスに迫っていく。欧州の車載市場ですでに実績のあるマイコンAURIXファミリの第2世代版(40nm)を昨年末に量産を始め、同時に日本市場にも力を入れていく。Infineonは車載パワー半導体のトップメーカーであり、日本市場でも実績を伸ばしてきたが、マイコンは日本では弱かった。しかし追い風が吹き始めた。

図1 インフィニオンジャパンの神戸肇氏 日本TIに30年在籍した経験を持つ

図1 インフィニオンジャパンの神戸肇氏 日本TIに30年在籍した経験を持つ


その追い風とは、国内でInfineonのマイコンAURIXへの要求が強まってきたことだ、と同社日本法人バイスプレジデント、オートモーティブ事業本部長の神戸肇氏はいう。車載市場での同社のマイコンは、トップのルネサステクノロジ、2位NXP Semiconductor、3位Texas Instrumentsの次の4位に甘んじてきた。しかし、2020年以降に向けたAURIXファミリのADASや自動運転車向けにデザインインを次々と勝ち取ってきた。クルマのかなりの部分(ドメイン)のECUにはAURIXが日本でデザインインされている(図2)。


AURIX family has been already selected in many applications at Japanese OEMs & Tier-1s

図2 日の丸で示した部分にAURIXがデザインインされたドメイン 出典:Infineon Technologies


さらに日本市場に本腰を入れるため、これまで信頼性試験などで不良が発生したときの解析の内の80%を東京で解析できるという解析技術センターを日本法人オフィスの近くに設置していたが、ここを拡張して、ADAS技術センターとiMOTIONシステムサポートセンター(産業用モータ制御技術開発)も含む、東京テクノロジーセンターを昨年10月に開設した。

2018年11月には、デンソーはInfineonの株式の5%を買い取り出資した。これはデンソーにとっては自動車用マイコンが確実に入手できるようになり、Infineonにとっても顧客をつなぎ留めておく意味がある。これまでもトヨタの広瀬工場からInfineon製品は優れた品質で何度も表彰を受けてきた実績がある。この出資は、デンソーが安心してInfineonのチップを使うことができるようになった証でもある。

そして、さらに有利な点は、これからのACES(Autonomy、Connectivity、Electrify、Sharing)に共通するセキュリティに強いことだ。同社のマイコンAURIXファミリには全てセキュリティモジュールが組み込まれている。このため、AURIXマイコンをセキュリティのためのコントローラとしても使える。システムのフロントエンドにAURIXを持ってきて、認証されているユーザーのデータのみをシステムが受け付けることができる。ADASシステムにおいて、IntelやNvidiaのシステムチップに入る前の段階で認証を受けるためのチップとして使うことも可能だ。InfineonのAutomotive事業部マイクロコントローラ担当VP&GMであるPeter Schaefer氏(図3)は、NvidiaやIntelのシステムにASIL-DのコントローラにAURIXが使われている、と述べている。


図3 InfineonのAutomotive事業部マイクロコントローラ担当VP&GMのPeter Schaefer氏

図3 InfineonのAutomotive事業部マイクロコントローラ担当VP&GMのPeter Schaefer氏


加えて、国内のマイコンメーカー、ルネサスが現在迷走中なことは業界の常識となっている。他社から見るとある意味、この状況はビジネスチャンスでもある。インフィニオンジャパン社は2000年度からこれまで日本市場では年率平均(CAGR)18%という驚異的な速度で成長してきた。セキュリティマイコンはこれからの強い武器となる。コネクテッドカーと自動運転、そして5G通信といった2020年代に向けSOTA(Software Over the Air)と言われる、無線によるソフトウエアやファームウエアの自動更新が本格化する際にセキュリティはマスト項目になる。

今回日本市場で強化を図るAURIXマイコンは、40nmルールの第2世代品と呼ばれるフラッシュマイコンである。AURIXはクロック160MHzでフラッシュ容量1MBのローエンドから同300MHzで16MBのハイエンド(6コア)まで10品種揃えており、第1世代の10品種と併せ、20品種程度持っている。

マイコンは品種を広げれば広げるほどカスタム的になりコストが上がりがちだが、ビジネスとして成立させるため、ソフトウエアの再利用を常に考慮し、ハードウエアは常に拡張性を持たせるような設計をすることでコスト増を抑えている。もちろん、ISO26262の機能安全規格の最上位のASIL-Dを全ての品種が満足しているとSchaefer氏は述べている。

これからのコネクテッドカーでのセキュリティを示唆するアーキテクチャとして(図4)、無線から最初に入ってくるフロントエンドのコネクテッドボックスにはAURIXをセキュアなコンパニオンチップとして用い、全てのドメインを統括するゲートウェイを通して各ドメインに接続するようなシステム構成でセキュリティアップを目指す。


AURIX family scales in the E/E architectures Most scalable in performance, memory, and peripherals

図4 AURIXファミリを使ったコネクテッドカーのアーキテクチャ提案 出典:Infineon Technologies


図4の各ドメインはECUのようなもので、それぞれセキュリティを高めることも、緩めることも設計次第で可能となる。例えば、ドメイン間のデータ通信に高速のEthernetを使う場合には認証を導入できないが、しっかりセキュリティを守りたいドメインはAURIXで認証システムを構成できる。

Infineonは、AURIXで日本市場をさらに成長させていく。これまでルネサスのマイコンを使っていたが、この2年間でInfineonに切り替えたところもあるという。日本市場でのマイコンの売り上げを現在の5%から23年度までに15%へと伸ばしていきたいと期待している。

(2019/01/18)

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