CMOSを含めたセンサフュージョンでADAS市場を強化するON Semi
クルマ用CMOSイメージセンサでトップを行くON Semiconductor。全社売上額の32%が自動車向けであり、自動車用半導体では、トップのNXP semiconductorのシェア11%に比べON Semiのシェアは4%だが、7位の地位を占めている。そして2017年の車載半導体売上額の22%がCMOSイメージセンサである。クルマのCMOSセンサ市場はまだ小さいため、ソニーが本格参入すると歯が立たなくなるとみるアナリストもいる。本当だろうか。
図1 CMOSイメージセンサのトップを行くON Semiconductor
自動車用CMOSセンサでシェアが50%(図1)と言っても、この分野の市場はまだそれほど大きくはない。2017年におけるON Semiの売り上げは54億ドルであるから、CMOSセンサの売上額は3.7億ドルにすぎない。この市場で50%シェアだからCMOSイメージセンサの市場は7.5億ドル程度といえる。この市場にソニーが参入し始めた。
ソニーの半導体売上額は2017年度には8500億円、内イメージセンサが6494億円である。営業利益が約20%の1640億円となり利益は十分出ている。ソニーのCMOSセンサの売り上げは、ほとんどがiPhoneをはじめとするスマートフォンからきているため、規模が極めて大きい。車載用のCMOSセンサはたかだか800億円程度の規模しかない。
ところが、ソニーのCMOSセンサの性能(感度やダイナミックレンジ、フレームレートなど)は群を抜いている、とあるアナリストは言う。だから車載用でも自動車用のスペック(高温や温度サイクル、機械的衝撃、さらにはA-SIL規格など)さえ満たせば、ON Semiを簡単に抜けるというのである。ただ、クルマ用途は性能が良ければ使われるというものではない。性能はCMOSセンサだけではなく、周辺の回路やソフトウエアでも性能を上げることはできる。
さらに将来のクルマには、CMOSカメラだけではなく、10m程度の物体を検出するレーダーや、最大100mの前方の物体も検出するLiDAR(Light Detection and Ranging)などの技術も欠かせない。CMOSカメラは霧がかかったり吹雪になったりすると見えない。もちろん夜間も見えない。そういった機能をレーダーやLiDARが補うのである。自動運転は死角を含めて人間が見えない場面もカバーしなくてはならない。
ON Semiは、CMOSセンサだけで車載に強いわけではない。むしろCMOSセンサ以外の車載用半導体は78%も占めており、センサからアナログ、パワー、パワーマネジメントなどマイコン以外の半導体の多くを持っている。48V系の電源を使うマイルドハイブリッドカーやEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)用のバッテリ周辺などにも強い。もちろん内燃エンジン系の点火プラグ駆動用のIGBTやASIC、圧力センサやその周辺、ATのようなトランスミッション系などの半導体もある。
図2 現在のADASの多くの半導体をカバーしている 緑、赤、黄色のICはON Semiの事業部が提供できる 出典:ON Semiconductor
照明系でも、常時ハイビームで走行し、対向車が来る時だけその運転手にはロービームになるように部分的にかつ自動的に切り替わるスマートライティング技術も欧州などですでに実績がある。ADASだけでもマイコンやLVDSインターフェース以外のチップはほぼカバーしている(図2)。
だからこそ、ADAS向けにレーダーによるイメージング技術もある。これは76~81GHzの広帯域のレーダービームを、MIMOを使って時分割にスキャンしながら遠方まで物体を検出する技術だ。さらに、この5月にはLiDAR技術も手に入れた。これは自動車向けLiDARで実績を積んできたSensL社(アイルランドのコーク市)を買収したことによる。1次元レーダー受信器アレイをサンプル出荷しており、今年の夏には2次元アレイに奥行き情報も含めた3次元アレイ検出器もサンプル出荷する予定である。
そしてCMOSイメージセンサと、レーダー、LiDARのデータを束ねて意味のあるデータに加工処理するチップが欠かせなくなる。そのチップセンサフュージョン(図3)の開発にはすでに着手している。クルマはやはり総合技術であり、CMOSセンサだけではやはり心もとない。ソニーはどう反撃するか、クルマ市場はスマホほど数量が出ないから、あまり力を入れないか、ソニーの行方、戦略が楽しみだ。
図3 自動運転にセンサフュージョンは不可欠 出典:ON Semiconductor
ON Semiconductorは、車載半導体売上額ではまだ世界7位にすぎないが、このところ勢いがついており、2010年から2017年までの同社の売上額は、年率平均(CAGR)30.9%で伸びている。連続プラス成長だ。