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蘭Holst Centre、フレキシブルエレクトロニクスをアジャイルなモノづくりへ

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フレキシブルハイブリッドエレクトロニクス(FHE)を進めるオランダの研究組織Holst Centreや、アディティブ製造の実用化を目指すAMSystems Centreが3次元構造のエレクトロニクスを目指し始めた。小型機器の筐体に配線やシリコンチップなどを直接実装し薄膜カバーを被せる。硬柔らかいフィルムで筐体に沿って形成したり、筐体に直接配線を描画したりする。3Dプリンタにも生かす。アジャイルなモノづくりだ。

オランダのHolst CentreやAMSystems Centre、応用研究組織で1932年に創立されたTNO(The Netherland Organization for Applied Scientific Research)は、研究所とはいえ、科学を市場へ持っていくことがミッション。オランダ国内に10ヵ所あり、かつてPhilipsの研究開発拠点だったEindhovenに本部を置いている。Holst CentreやAMSystems以外にも、ソーラー技術で他の研究所と協力するSollianceもある。

フレキシブルエレクトロニクスは、フレキシブルプリント基板上に配線を描いたり、有機トランジスタを作製したりしているが、有機トランジスタの移動度は20年前と比べてもいまだにシリコンMOSトランジスタの1/100以下という全くお話にならないくらい小さい。これで回路を組むならいつまでたっても実用化できない。そこで、シリコンのLSIの裏面を薄く削ったチップを使い、配線には導電性インクで形成する、ハイブリッドなフレキシブルエレクトロニクスが注目され、Holst Centreは力をFHEに注力してきた。


図 Improved printing technologies

図1 光を照射、その熱でインクの気泡を作りインクを押し出す光プリンティング技術 5µmまで配線を微細化できるというメリットがある 出典:Holst Centre


フレキシブルエレクトロニクスあるいはプリンテッドエレクトロニクス、有機エレクトロニクスなどと言われる分野ではもはや有機トランジスタは姿を消した。ディスプレイ用のTFTトランジスタさえも有機トランジスタではなく、酸化物半導体IGZOなどの無機トランジスタをHolst Centreは使っている。

Holst Centreでは、フレキシブルプリント回路基板の配線幅やピッチを最小5µmに微細化できる新しい光プリンティング技術を開発している(図1)。これは、透明なインクタンク(CuやAgなどの金属を含む)にレーザー光を当て、局所的に加熱することで気泡が発生し、それによってインクを押し出すという原理である。これはLIFT(Laser Induced Forward Transfer)と呼ばれている。ちょうどインクジェットでインクに局所的に圧力や熱を加えてインクを押し出すという原理と似ている。また従来のスクリーン印刷のようにスキージでインクをスクリーン膜に押し出すことで文字や絵を描く光プリンティング装置も提案している。これは、フォトマスクにレーザーではなく一括紫外光を当て、光が突き抜けた部分のみ、インクが飛び出すことで文字や絵を描く技術で、PhATT(Photonic Ablation and Transfer Technology)技術と呼んでいる。

インクは、有機溶剤でCuやAgの金属を溶かしたもの。このインクは0.5~100 Pa・sの粘度で配線幅や配線厚さを粘度によって変えていく。最小寸法ではCuのインクを用いて、8µmのL/S(配線幅と間隔)、厚さ1µmを実現している。Agを用いると25µmのL/Sを得ている。


図 LIFT: printing on delicate substrates

図2 細い配線を形成すると透明に見えるため高価なITO膜を置き換えられる 出典:Holst Centre


Agナノワイヤーのように細い配線を形成することによって、高価なITOを置き換えるといった応用(図2)も考えている。この場合は、細いグリッド線を印刷で形成する。このインク技術はフレキシブルプリント配線板だけではなく、3次元形状の筐体などに沿ってコンフォーマルに配線を描くことができる。

導電性の金属ドットをLIFT法で形成した実験例では、2万2500ドット(1点100µm角、0.5mm間隔)を印刷するのに1秒足らずだったという。この場合は、波長355nmの紫外線レーザーを使い、レーザー光パルス幅がnsオーダーで、繰り返し周波数は10kHzの条件だった。

フレキシブルエレクトロニクスをクルマへ応用することも考えており、インテリアに車内のボディに沿って印刷で配線すればワイヤーハーネスが軽くなる、とHolst Centreのスマートフレキシブルシステム部門ビジネス開発マネージャーのHelen Kardan氏(図3)は語る。


図3  Holst Centreのスマートフレキシブルシステム部門ビジネス開発マネージャーのHelen Kardan氏


Holst Centreでは、この印刷技術を使ったフレキシブルエレクトロニクス技術で筐体や3次元物体に沿った配線形成だけではなく、アディティブ製造技術にも使えるとして、フレキシブルエレクトロニクスの新たな段階に入ったと認識している。そして、アディティブ製造装置の概念設計も打ち出している。フレキシブルエレクトロニクスは、3次元プリンティング、アディティブ製造などの技術を揃えることで、アジャイルなモノづくりの基礎に向かい始めた。

(2018/02/28)

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