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Ericsson、5Gの見通しを明らかに

スウェーデンを拠点とする通信機器メーカーEricssonは、5G(第5世代の携帯通信)への見通しを発表、LTEと共存する方式と、5Gだけのスタンドアローンの方式も始まっていることを明らかにした。5Gは米国が先行し、2022年には人口カバー率が15%に達すると予測した。

図1 エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏

図1 エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏


この見通しは、Ericssonが6月に「Ericsson Mobility Report 2017」を発行、このほどその日本語版を公開した時に、同社日本法人のCTOを務める藤岡雅宣氏(図1)が語ったもの。5Gはこれまでにないほどの高い周波数(3.5GHz、4.5GHz、28GHzの準ミリ波や60GHzにミリ波など)を使うためNR(New Radio:新無線)と呼ばれている。世界では米国が今年から商用サービスを始めるが、ケーブルブロードバンドなどの固定回線に代わるサービスという位置づけだという。日本では光ファイバによるサービス(FTTH: Fiber to the Home)が普及しているため、モバイルブロードバンドは米国、韓国が先行する。

米国に続き5Gを導入するのは韓国で、2019年の平昌オリンピックに向け、商用化前のデモを行う予定だ。2020年から導入を開始するのは日本と中国で、日本は東京オリンピック/パラリンピックに合わせる。5Gは基本的に4GであるLTE(Long Term Evolution)と共存する形で進められるが、中国だけは5GのSA(Stand Alone)方式で進めていく。携帯通信の標準規格を決める団体の3GPP(Third Generation Partnership Project)で、LTEとは無関係に5Gを進めるSA方式が認められ、中国がSA方式で行く。

5Gへの動きが急速になってきたのは、予想以上にモバイルブロードバンドの要求が高まってきたためである。モバイル加入契約数の内、モバイルブロードバンドの加入数が予想以上に伸びており、2022年にはモバイル加入契約90億件の内、90%以上の83億件がモバイルブロードバンドになるとみられている。直近の2017年第1四半期でも、世界のモバイルトラフィックは、前年同期比で70%増加したという。

また、日本は4GすなわちLTE(注)の先進国であるが、世界的には2016年時点では2GのGSM方式が最もモバイル加入者が多かったが、2018年には3GではなくLTEが最大のモバイル加入者になるとみられている(図2)。このことは、3Gが意外と伸びず、GSMの時代が長く続き、いきなりLTEへ移行する国や地域もあるということになる。


図2 2018年にはLTEが加入者数最大になりそうだ 出典:Ericsson

図2 2018年にはLTEが加入者数最大になりそうだ 出典:Ericsson


モバイルブロードバンドをけん引するのは動画サービスである。モバイルデータトラフィックは2016年、8.8EB(エクサバイト:1テラバイトの100万倍)という大容量を費やしているが、動画や音楽、ウェブ閲覧、SNSなどのアプリケーションの内、動画が最も多く約50%を占めている。2022年には71EBにもなり、そのうち動画は75%を占めるようになるという。動画のトラフィックは2022年までに年率平均50%で伸びていくとしている。

5Gはまず、大都市圏や市街地エリアから始まるが、2020年の東京オリンピックを経て、2022年には5Gの人口カバー率は15%に達するとみている。つまり、ブロードバンド化が進むため、5Gへのスピードも速まるとみられる。

5Gではどのようなサービスが展開されるか。動画の高解像度化、すなわち4K/8K映像が普及し、テレビだけではなくスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスで高解像動画やVR/AR(仮想現実/拡張現実)などの没入型グラフィックスも普及するとみられている(表1)。さらに自動運転の遠隔操作や衝突回避などの自動車分野、ロボットによる遠隔手術、製造業や鉱業などでも動画を用いた遠隔操作が使われるようになると予測する。

表1 5Gで想定されるサービス 出典:Ericsson

表1 5Gで想定されるサービス 出典:Ericsson


カギを握るのはやはり半導体テクノロジー。準ミリ波ないしミリ波というこれまで経験のないほど高い周波数の携帯通信を行うため、受信機のLNA(ローノイズアンプ)や送信用のPA(パワーアンプ)などの開発、波長がmm単位になることによる整合回路設計、平面アンテナのフェーズドアレイアンテナを使ったビームフォーミング技術など、これまでの通信用RF設計にない克服すべき技術課題は多い。

注)かつてNTTドコモはLTEを4Gではなく3.9Gと呼んでいたが、世界的には4Gと呼んでおり、ドコモも今は4Gと呼んでいる。

(2017/08/22)
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