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「クルマも仮想化に」、Intel、サーバの世界からそのまま自動運転へ

「サーバの世界をクルマに持ってくる」。データカンパニーを標榜するIntelは、データセンタで培った技術を、自動運転に向けたクルマ分野にも適用するという方針を明らかにした(図1)。Intelのチップを搭載したクルマは30車種以上、59社のパートナーと共に参入している。自動運転に向かうほどCPUは演算リッチになりIntelには有利になってくる。

図1 インテル社代表取締役社長の江田麻季子氏

図1 インテル社代表取締役社長の江田麻季子氏


2017年現在ではADASはレベル2か3で、レーンを守り常にハンドルを握れる状態で手を離してもよい、というレベルだ。まだ自動運転にはほど遠い。2025年には人間が介在しなくても済むレベル5になるだろうと予想し、ADASシステムは現在の0.5〜10TFLOPSから50~100 TFLOPSが求められるようになるとみている。公道でのレベル4の自動運転の実験にも成功している。車載のネットワーク帯域は、現在の数十Mbpsから2025年には数百Gbpsになるとみる。そしてECUは現在の制御命令中心のマイクロコントローラ(マイコン)から、演算命令中心のCPUプロセッサへと変わるだろうとする。ECUの数はもはや増えずに仮想化技術により、むしろ150個から50個程度へ減るだろうという。

仮想化技術とは、1台のコンピュータハードで、別々のOSやCPUで動いているように見せかける技術のこと。これまでのコンピュータサーバは、ウェブ用、メール用、ERP用などが、まるでサイロのように乱立していたことに対してITシステムへの投資効率が悪いと指摘され、1台のコンピュータで数台のコンピュータに見せかける「仮想化」技術が生まれた。これは反面、ハードウエアが減る方向になる。Software-Defined XXX(NetworkやRadioが元々入る言葉)という技術も同様に、ハードウエアを減らし、ソフトウエアを変えるだけでシステムを変える技術である。

サーバ市場では、仮想化の影響でハードウエアが軒並み減少してきたが、唯一Intelアーキテクチャx86アーキテクチャのサーバだけが成長していた。Intelはサーバ市場をそのままクルマに当てはめようとしている。クルマへの仮想化技術は、クルマメーカーにとって、低コストで済ませる技術でもある。これまであまりクルマ産業での実績の少ないIntelをドン・キホーテと見えないこともない。しかし、このコンセプトは実は、クルマの高度化、制御リッチなマイコンから演算リッチなプロセッサへという自動運転の流れとも合致する。つまり、自動運転市場はIntelの狙う市場に近づいているといえる。

自動運転を実現するためのソリューションとして、Intelは車両、ネットワーク、クラウドとそれぞれで商機があると見ている(図2)。クラウドではデータ解析のためのAI技術、すなわちモデルの学習とモデル推論、圧縮モデル、さらには推論システムなどIntelのCPUとFPGAを駆使したチップとソフトウエアを用意する。ネットワークでは集まったデータのフォーマッティングやモデル化などに加え、ソフトウエアやファームウエアのリアルタイム更新技術、すなわちSOTA(Software Over The Air)を使う。車両は自動運転機能をエッジコンピューティング処理するためのチップが十分そろっている。例えば、AtomやQuark、Core i、XeonなどのCPUに加えArria10のFPGAも用意している。


図2 車両(エッジ)だけではなくネットワーク、クラウドにもIntelの商機がある

図2 車両(エッジ)だけではなくネットワーク、クラウドにもIntelの商機がある


Intelは日本の自動車メーカーの名前を上げないが、共同でADASや自動運転システムを共同開発しているようだ。これまでもBMWと一緒に自動運転技術の開発を進めていたが、6月はじめに米国のティア1サプライヤのDelphi、最近はドイツのティア1サプライヤのContinentalもIntel-BMWチームに加わった。このチームにはIntelが買収提案しているイスラエルのコンピュータビジョン会社MobilEyeも加わっている。このチームの目標は2021年までに自動運転のBMWを生産することである。

(2017/06/27)
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