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プリント基板を機能デバイスへ転換;JPCAショーから

プリント回路基板(PCB)の総合展示会であるJPCAショー2017が先週、東京ビッグサイトで開かれ、プリント基板を再定義しようという動きがあった。PCBはこれまでの半導体チップや部品を載せるだけの支持基板というパッシブな意味合いに対して、機能を基板内に埋め込んだり3次元形状の筐体に回路配線を形成したりするようなアクティブな意味を持たせよう、という動きである。

図1 国内プリント基板生産額の推移 出典:JPCA

図1 国内プリント基板生産額の推移 出典:JPCA


2017年のJPCAショーは、登録参加者数が増えたものの出展社数は前年の760社から456社と大きく落とし、小間数も前年の1421小間から1355小間へと減らした。これまではアジアからの来場者、出展社が非常に増え、出展社・出展小間数は2016年がピークだった。国内のプリント基板生産金額は、下降線をたどってきた。JPCAショーを主催する日本電子回路工業会(JPCA)によると、ピークの2000年には2兆5000億円を超していたが、2016年にはちょうどその半額まで減少している(図1)。PCBの生産がアジアや中国へシフトしていったためだ。日本企業のアジア・中国進出もあるが、アジアや中国の地場産業が大量生産するようになった。

それでもJPCAショーで2016年まで出展社が増えてきたが、今回は減少へ転じた。確かに、会場における中国語やハングル語の会話が少なくなっていた。

プリント回路技術は、JPCAだけではなくJEITA(電子情報技術産業協会)内の「Jisso技術ロードマップ専門委員会」でも検討され、このほど2017年度版プリント配線板技術ロードマップを作成した。作成に携わったワーキンググループ(WG)5の主査であり、インターコネクションテクノロジーズ社代表取締役の宇都宮久修氏は、これまでのロードマップ作業からプリント基板そのものを再定義することを報告した(図2)。


図2 プリント基板を新機能基板とする新しい位置づけ 出典:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会

図2 プリント基板を新機能基板とする新しい位置づけ 出典:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会


従来のプリント基板にはシステムやサブシステムを提供するという概念がなかった。そこで、これからのプリント基板を「システムやサブシステムを提供するために、設計に基づき必要な電子部品機能と配線パターンを絶縁基板の表裏面およびその内部に形成した板の総称」と再定義した。最終製品の競争優位性は、サブシステムを構成する回路の設計と実装、あるいは電子部品の選択で決まるとして、性能とコストの優位性を持たせるためサブシステムを機能させる最低限の部品点数と回路の微細化、基板の取り数の最大化などを決めていく。テクノロジーとしては、従来のリジッド基板に加え、フレキシブル基板、部品内蔵基板技術、FO-WLP、パッケージレベルパッケージ(PLP)、3D配線技術などが使える。

Apple Watchのような超小型の実装基板には部品内蔵基板が有効で、すでに使われているが、WG5が提案するような能動的なプリント基板の概念は、2次元平面だけで定義されたムーアの法則の行き詰まりとも絡んできそうだ。システム側では、シンギュラリティ(人間の1000億個の脳のニューロン[神経細胞]に匹敵する数のニューロンを人工的に作り出す時:2045年ごろといわれている)を信じ、さらに高集積化を望む声はある。

さらに現実的なスマホのようなデバイスではバッテリをできる限り長持ちさせるため、バッテリを大きくする反面、プリント回路面積を小さくしている。すなわちシステム的にはできる限りの高集積化が望まれているが、2次元表面に限らない。3次元的に機能を詰め込めばよい。ムーアの法則はあくまでも2次元にこだわっているから限界といわれるのである。

JPCAショーでは、部品内蔵基板技術や3次元配線(MID: Molded Interconnect Device)を支える新しい製造技術や材料が登場した。いくつか拾ってみると、部品内蔵基板やフレキシブル基板を従来よりも薄くできるポリマー材料や接着技術、MID向けにインクジェット法で配線を形成するナノインク技術などがある。

ドイツMerck社の英国の拠点Merck Chemicalが開発し、メルクジャパンが部品内蔵基板を検討しているポリマー材料は、誘電率が数1000と高く、耐圧は10Vあるという。従来の基板に内蔵する部品だとその厚さを100µm以下にすることは難しいが、このポリマーは1µm〜30µmの間で誘電率が変わらない、という特性を持つ。また、従来のポリマー材料を使って誘電率を上げる場合によく用いられる導電性のフィラーを入れると、損失角tanδも大きくなり損失が増えてしまう。

新材料はフィラーを入れていない。薄膜形成にはスピンコートを用いるが、この材料を溶かす有機溶剤の濃度を変えることで形成する膜厚を変えていく。また、使用温度は数十°Cどまりで、多層基板形成における温度の制約はないという。欠点は高誘電率につきものの高周波特性。今のところ10kHz程度しか動作できない。このため低周波用だが、誘電率が高くtanδが低いという特長を生かし、電源やパワーマネジメント周りに使える用途がありそうだ。

東芝は、ポリイミド膜上に単層の分子膜を形成し、その上に金属膜をつけられる技術を開発、JPCAで盛岡市産学官連携センターのいおう化学研究所と共に出展した。これはわずか1層の分子膜を付けることで接着力が強化され、その上にメッキで厚めのメタルを形成できる(図3)。ピール(はがし)強度は、25°Cでは従来品と遜色ないが、温度を上げるにつれ、はがれにくくなる。従来だとピール強度が150°Cで40%に下がり、200°Cでは25%に下がるのに対して、今回の技術を使えばピール強度はほとんど低下しない。


図3 プリント基板に付けた銅板 はがれにくいことが特長

図3 プリント基板に付けた銅板 はがれにくいことが特長


メタルの種類は、銅、ニッケル、アルミニウムとも強度は従来の処理技術よりもはるかに強い優位性が見られた。今回の処理は、トリアジンを含むシラン処理を行っているとしている。処理によって共有結合ができるため強度が上がると東芝の八甫谷明彦氏はみている。分子層を1層入れても熱抵抗はほとんど変化しないという。メタルとしては下地にNiを付けCuメッキすることでパワー半導体などの実装に使えるとしている。

MIDのような立体形状そのものに配線を形成するのに使われるインクジェット向けのナノインク材料はEMC対策にも有効だ。インクジェット法を使えるようにするためには、インクの目詰まりを防ぐため粘度を下げることが欠かせない。岡山県のC-INC社は金属微粒子をナノメータレベルに細かくし、有機溶剤に溶かしたインクを出展した。AuやAg、Cuなどの微細粒子をインクに溶かした製品を揃えており、粘度は10重量%で4cpsという。塗布後に120°Cで1時間乾燥させた後、測定した体積抵抗率はAgが2.5×10の-5乗Ωcm、Auは5.0×10の-5乗Ωcmである。インクジェットの他、スプレイ、ディップ、ディスペンサなどの塗布が可能で、電磁波吸収膜を3次元曲面形状に塗布できる。

JPCAショーでは、フレキシブル基板、薄い部品の内蔵基板など、これからの新機能付きプリント基板に向けた技術が続出した。プリント基板は、受動的な支持基板ではなく、能動的な機能的基板となることにより、ムーアの法則の限界を3次元、2.5次元などの実装で補っていく技術となりうる。

(2016/06/21)
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