TDKがInvenSenseを買収する理由(わけ)
TDKが米MEMSファブレスメーカーのInvenSenseを13億ドル(約1500億円)で買収することで両者合意した。TDKは、強みである磁気センサをはじめとする磁気デバイスに加え、InvenSenseの持つ慣性センサ(加速度センサとジャイロセンサ)を手に入れ、IoT向けのセンサデバイスを充実させることができる。
図1 TDKはInvenSense買収でセンサ製品ポートフォリオを拡充できる 出典:TDK
買収金額は、InvenSenseの2016年12月20日の株価の終値に対して19.9%のプレミアムを上乗せして、1株=13ドルとした。買収完了は2017年度の第2四半期(9月末)を予定している。
TDKは、部品内蔵基板技術や受動部品、DC-DCコンバータなどの電源技術などを持つ。これまでTDKが最も強かったHDDの磁気ヘッドの将来市場が縮小していくことをTDKは意識しており、磁気ヘッドのTMR(Tunneling Magneto-Resistance)やGMR (Giant Magneto-Resistance)技術を生かすため、磁気センサへの応用を積極的に始めている。ただ、センサビジネスとしては、磁気センサだけでは弱いため、MEMS技術を手に入れることで、IoT向けのセンサビジネスは整うことになる(図1)。
MEMSをはじめとするセンサビジネスは、スマートフォンに加速度センサやジャイロセンサが採用されて以来、急速に立ち上がった。さらにクルマ用や一般工業用、工業用IoTなど市場は拡大しつつある。JEITAはイメージセンサを含めた全てのセンサの世界出荷額実績を調べたが、2013年は11%増、13年15%増、14年17%増、15年40%増、とずっとプラス成長を続けている。
買収されるInvenSenseのこれまでの実績は好調である(図2)。これまでのところ、ずっとプラス成長、しかも2007年から2016年までは年平均成長率CAGR46%で推移している。これまではスマホとともに成長してきたが、これからはIoT応用を目指す。
図2 InvenSenseも好調な企業 CAGR46%で成長し続けている 出典:TDK
MEMSのようなセンサビジネスは、物理量を変換した電圧や電流の挙動(時間的変化)が何を意味するのか、意味づけするようなアルゴリズムの開発も伴う。InvenSenseはソフトウエアアルゴリズムも製品として持っており、センサ信号を多数集めるセンサフュージョン(あるいはセンサハブともいう)用のソフトウエアも得意とする。例えば、センサを搭載しているスマホを持つ人が地上から、GPS電波の届かない地下街へ移動しても場所を特定できるが、そのための加速度センサとジャイロセンサからの信号アルゴリズムを持っている。ジャイロセンサを利用するイメージセンサカメラの手振れ防止用のアルゴリズムも持つ。これらはMEMSセンサの価値を高めるソフトウエア技術である。
また、センサだけがあってもIoTデバイスはできない。TDKはワイヤレスでデータを送るためのトランシーバのRF回路設計でQualcommとも手を結んでいる。RF360という合弁会社がそれだ。センサインターフェースなどのアナログ回路はオーストリアのミクストシグナル半導体メーカーMicronasを買収して手に入れた。TDKはIoT時代の準備を着々と進めている。