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実用性最優先のフレキシブルエレクトロニクスを生み出すHolst Centre

実用的ではない有機トランジスタでLSIを作るのではなく、Si CMOSLSIを使ったフレキシブルエレクトロニクスが実用的になってきた。研究開発センターでさえ、実用化を念頭に置く。ベルギーのIMECとオランダの研究機関TNOが共同で設立した研究所Holst Centre (図1)がフレキシブルデバイスの実用化を進めている。

図1 ベルギーIMECとオランダのTNOが共同で設立したHolst Centre 広大なハイテクセンターの中にある 出典:Holst Centre

図1 ベルギーIMECとオランダのTNOが共同で設立したHolst Centre 広大なハイテクセンターの中にある 出典:Holst Centre


有機トランジスタを使ったフレキシブルエレクトロニクスは、いつまでたっても実用化にならない。まるで「研究のための研究」的な様相を呈している。有機トランジスタの移動度は高くてもせいぜい10cm2/Vsしかない。それでも研究論文には、こんなに上がったという言い方をしている論文が多い。いつまでたってもSi MOSトランジスタの1/10未満である。10年、20年も研究しているのにこれ以上の性能は上がらない。これでは実用化は遠い。フレキシブルエレクトロニクスあるいはプリンテッドエレクトロニクスは、もはや実用化できない技術、というイメージが定着した。

ところが、海外には実用化することを目標とするフレキシブルエレクトロニクスの研究者が出てきている。配線やタッチセンサなどのパッシブな部分にフレキシブル基板と導電性インクの印刷技術を用いて配線や電極を形成する。そして、高性能が必要な能動デバイスには市販のSi LSIをフレキシブルプリント基板に実装して実用化を図ろうというものだ。

研究者といえども、社会を変えたいと考えている人は少なくとも海外では多い。信号処理用のLSIは、既存のシリコンCMOSで十分高い性能が得られている。しかもシリコンチップはウェーハの最終段階で削ることが常識になっている。非常に薄いのである。だから、Si CMOS LSIをフレキシブル基板に張り付けて信号処理に使うフレキシブルエレクトロニクスを実用化しようと考えるのはごく自然の流れになっている。

プリンテッドエレクトロニクスを早く実用化したいと考える企業の一つ、英国ケンブリッジにあるNovalia社は、全て既存のシリコン技術をベースにしたフレキシブルエレクトロニクスで音楽の出るポスターやボール紙に描いた音の出るピアノやドラムなどの商品をすでに市場に出している(参考資料1)。フランスの大手広告代理店JC Decaux向けにビジネスを展開している。

こういった実用的なフレキシブルエレクトロニクスを普及させる研究開発活動をHolst Centre研究所が担う。研究所とはいってもいつモノになるかわからないといった活動ではない。ここでのテーマは、超低消費電力技術とフレキシブルエレクトロニクスである。この応用として、ヘルスケア端末や、OLEDディスプレイ、ソーラー電源、LED照明などを目指している。

オランダのHolst Centreは、ベルギーのIMECとオランダの研究開発機関TNO(応用科学研究機構)の共同出資で2006年に設立された。その一部は、2010年にセミコンポータルでも紹介した(参考資料2)。1平方kmの敷地のハイテクキャンパスに建物があり、現在スタッフは210名、28ヵ国から研究者が働いている。IMECと同様、大学院大学としての役割も備え、35〜40名の学生もいる。パートナー企業や研究機関は現在55社に達した。「研究開発のアウトソースとして使ってほしい」と、Holst Centre Managing DirectorのTon van Mol氏(図2)は語る。


図2 光らせたOLEDを持つHolst Centre Managing DirectorのTon van Mol氏

図2 光らせたOLEDを持つHolst Centre Managing DirectorのTon van Mol氏


大面積のディスプレイやセンサなどの応用だと、単結晶Si以外のTFT有機/無機トランジスタを作らざるを得ないが、性能や低消費電力が求められる信号処理用途では、一般のSi LSIチップを張り付ける。フレキシブルエレクトロニクスはもはや実用化しなければ意味がない。このための提案として、ヘルスケア関係の医療機器用、ソーラーパネルを身に付けるファッション性の衣服などの応用と、ウェアラブルデバイスが主な対象となる。応用例の試作も多い(図3)。例えば衣服の中に有機ELディスプレイを埋め込んだり、新生児用毛布に青色OLEDを埋め込んだりするような試作例がある。


図3 Holst Centreにおけるフレキシブルエレクトロニクスの試作例 出典:Holst Centre

図3 Holst Centreにおけるフレキシブルエレクトロニクスの試作例 出典:Holst Centre


こういった試作例だけだと従来のフレキシブルエレクトロニクス研究と変わらない。図3の右下の例にあるような薄くてフレキシブルなウェアラブル端末こそが、実用的なデバイスになる。信頼性的にも60℃/90%RHの高温高湿試験においても問題をクリアできるようになった。Holst Centreには、耐湿性を上げるためのバリア層として、CVD SiN膜-ポリマー-プラズマCVD SiN膜の3層構造をロール-ツー-ロール方式で形成できる量産用の製造装置を持っており、基板フィルムの長さはなんと、1.2kmにもなる。プラズマプロセスといってもALD(Atomic layer Deposition)法を使っているとしている。導電性インクを印刷で形成する場合でも配線幅28µmと非常に細く形成しているため、OLED照明はほぼ透明に見える。

参考資料
1. 既存技術で、プリンテッドエレクトロニクスを実現、新しいエクスペリエンスをつくる (2015/04/30)
2. グローバルなオープンイノベーションで5年目を迎えたホルストセンター研究所 (2010/06/09)

(2015/07/21)
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