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Ericssonの目指す5Gの無線システムは消費電力を半減

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世界最大の通信機器メーカー、スウェーデンのEricssonが第5世代のモバイル通信、いわゆる5Gの方針を明らかにした。5Gではただデータレートが10Gbpsと高速になれば良いというものではない。大小の基地局をはじめとする通信インフラの消費電力を今後10年間で半減させながら、通信トラフィックを1000倍に上げようという目標である。

図1 トラフィック量の多い場所と少ない場所で消費電力の差はなく、少ない地方では無駄に使われていた 出典:Eriscsson

図1 トラフィック量の多い場所と少ない場所で消費電力の差はなく、少ない地方では無駄に使われていた 出典:Eriscsson


電力効率が2000倍というモバイルネットワークシステムが第5世代のモバイル通信という訳だ。通信システムが明確な目標を打ち出せば、半導体メーカーは消費電力を下げるための回路上、アーキテクチャ上、プロセス・デバイス上の工夫を考えやすくなる。

システム全体の消費電力を削減するためには、現在の通信ネットワークシステムの消費電力を分析する必要がある。ネットワーク全体で通常のトラフィック、高い頻度のトラフィック、極端に高いトラフィック、という三つの場合について見積もったところ、定常的に電力を使うところが最も消費することがわかった(図1)。

このデータは、無線ネットワークの中でも都会の基地局と、田舎の基地局に同じ無線システムが使われており、どちらも同じ電力を消費していることを示している。そこで、トラフィックの少ない田舎では、例えば一つに基地局に3台の無線ユニットがあるなら1台しか使わない。MIMOアンテナの4本のアンテナの内、1本しか使わない。モバイルネットワークとWi-Fiやスモールセル、Bluetoothなどさまざまな異種のネットワークで構成されているHETNETなどではスモールセルを休止させる。あるいは4つのキャリア(搬送波)の内1本のキャリア電波しか使わない。これらの手段を取り、システム全体の消費電力を削減する。しかもこれらをダイナミックにオンデマンドでの起動するような技術開発が求められている。

では基地局の無線ユニットの消費電力の内訳はどうか。図2は無線ユニット内のいろいろな基本回路の消費電力を示したものだが、送信部分のパワーアンプ回路が最も大きな電力を消費している。RF送信出力が大きくなるにつれ、パワーアンプの消費電力はますます大きくなり、他の回路部分はそれほど大きく増えない。


図2 基地局の無線ユニットではパワーアンプの消費電力が常に大きい 出典:Ericsson

図2 基地局の無線ユニットではパワーアンプの消費電力が常に大きい 出典:Ericsson


基地局の規模によってもパワーアンプの消費電力は変わる。図3にはスモールセルの中でも1〜2kmをカバーするマクロセルは964.9Wと1kW弱の電力を消費し、そのパワーアンプ回路部分はその64%を消費するのに対して、数百m範囲のマイクロセルは全体で94Wとその1/10に下がり、パワーアンプの比率は47%に減る。無線LANレベルの送信範囲に相当するピコセルでは9Wの電力に対して36%がパワーアンプ部分となる。家庭内のWi-Fi範囲のフェムトセルでは6.2Wに対してパワーアンプが32%と、その比率は下がっているが、やはり大きい。


図3 基地局の送信出力が大きければ大きいほどパワーアンプで消費する電力が大きい 出典:Ericsson

図3 基地局の送信出力が大きければ大きいほどパワーアンプで消費する電力が大きい
出典:Ericsson


パワーアンプの消費電力の削減には、包絡線(エンベロープ)技術が有力だ。従来のパワーアンプに印加する電源電圧は最大電圧一定であるが、入力信号が小さい場合でもこの電圧分の電力を消費する。これに対してエンベロープ技術は、入力信号レベルに応じて、電源電圧も変えていく方式だ。パワートランジスタに入力する直前の信号をフィードバックし電源電圧回路の電源電圧も変えてしまう。Ericssonは、回路技術の工夫による低消費電力化の貢献が高いという。

基地局にある無線ユニットの低消費電力化だけではない。信号を送るためのデューティ比もできる限り落とす、アンテナ効率を上げる、などの方策もある。送信パルスの送信デューティ比に関しては、LTEではデータを送る前に制御信号を0.2msごとに送っているが、これを100msごとに送り、その間はスリープ状態にしておく。アンテナ効率を上げるための手法の一つとしてビームフォーミングがある。電波に指向性を持たせ、端末のない方向にはできるだけ電波を向けない。これは複数のアンテナを使い、それぞれを切り替え、端末のいるところに向けて送信パワーの無駄を減らす。

このようにして、消費電力を減らしていく道筋を立てている。これまでの基地局はAlways-onだったが、これからはAlways Availableに代えていくことで、無線ネットワークの低消費電力化に対処していく、とEricssonは計画している。

(2015/05/22)

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